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ブレーキ痕
「酒と蘊蓄の日々」というブログがおもしろくて、さいきん毎日読んでいる。自分用の「読書日記」をつけることにした。今日はブレーキ痕について。
ブレーキ痕

要旨:自動者事故を伝えるニュースなんかでよく「現場にブレーキ痕はなく」という台詞を見かけるが、昨今のABS付きであれば路面にブレーキ痕が残るなんてことはまずない。書くなら「当該車両はABS非搭載だったにもかかわらず現場にブレーキ痕はなく」と書くのでなければ無意味である。

「酒と蘊蓄の日々」を書いてる石黒さんという方は「元自動車業界人で現在は機械メーカーに勤める日本人」だそうで、だからこれは勘やイメージで言ってるのじゃなく、実態を知ってる人の発言である。ABS付であれば路面にブレーキ痕が残るなんてことはまずない。なるほどなあ。私は自動車を持ってないので、まあ知らなくても当然(とは言え頭文字Dおよび湾岸ミッドナイトの愛読者としては恥ずかしい)だが、ドライバーにとってはよく知られた事実なんだろうか。たぶんそうでもないんだろうな。普通の人は高速走行からブレーキ一気にベタ踏みなんて機会はあんまりないだろう。だからこそ新聞記者も「現場にブレーキ痕はなかった」なんて書いたり、デスクもその記事に疑問を持たずOK出したりするんだろう。警察はどうなんだろうか。警察は定例会見での質疑応答で「それで、現場にブレーキ痕はあったのですか」とか新聞記者に訊かれた場合、その質問はABS搭載の有無とセットでないと意味ないよ、とか、うん、なかったけど、報告によるとABS付きだったらしいから、ブレーキ踏んでないのかどうかはわからんね、だとか答えるのだろうか。

長年刷り込まれてきたイメージを打ち消すのはなかなか難しいが、なんとか打ち消すように努力をしよう。「清原は自分のことをワイと言う」「相撲取りは自分のことをワシと言う」「刑事は容疑者にカツ丼をおごる」「日本の裁判官は木槌で机を叩く」「全身に金粉を塗られると窒息する」「回転の少ない球は重い」「名古屋の人は毎日海老フライばかり食べている」等々、事実でないのにイメージで世間に刷り込まれてきた迷信はたくさんある。急ブレーキを踏めばアスファルトに黒々とタイヤ痕が残る、というのは長年にわたって事実だったわけだが、今では、事実とは限らない、と。

「全身に金粉を塗られると窒息する」という与太話の起源は「007 ゴールドフィンガー(小説は1959年刊、映画は1964年)」だが、今の十代や二十代はそもそもそんな話を聞いたことがないという人の方が多い。もしかすると遠からず死語となるかも知れない。「急ブレーキを踏めばアスファルトに黒々とタイヤ痕が残る」という話はどうなるだろうか。同じように、やがて死に絶えるだろうか。たぶん、そうはならない。いくらABSが普及しようが、子供たちはやっぱり上履きで学校の廊下を滑ったり、靴下で病院や体育館の床を滑ったり、運動靴で地面を滑ったり、自転車のタイヤを滑らせたりして、「滑る」「ズルズル」の実感を蓄積するだろう。「タイヤ痕」には体感上の裏付けがあるのである。

フィクションにおいては効果音の問題もある。例えば映画「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」は大型トラックによる死亡事故のシーンからいきなり始まるのだが、ギャルルルギュウワキイイイイイイイイイイイイイ、という、悲痛な、遠吠えのような、何か取り返しのつかないことが起こりましたよと告げるような、胸を引き裂くような、鼓膜をつんざくような、黒板を掻きむしるような、あのおなじみのブレーキ音が響き渡り、路面には黒々とタイヤ痕が描かれる(途中から血で赤くなる)。ABS付きだとほとんど滑らないということは、ABS付きだとあの音がほとんどしないということだ。悲劇の象徴として、あの効果音はなかなか外せないだろう。そしてあの音があれば必ずあのタイヤ痕は残る。映画の中の急ブレーキシーンでは、ABSはなかなか主流にならないのではなかろうか。長年刷り込まれてきたイメージを打ち消すのはなかなか難しい上に、今後もそうした刷り込みは続くわけだ。それでも、なんとか打ち消すように(というか、ABSもあるよと思い起こすように)努力をした方がいいと思う。

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ついでにもうひとつ、Wikipediaで今日読んだ話。多くの車種では、ABS作動中はブレーキペダルが振動する。それに驚いてブレーキペダルから足を離す人が多い。離すと危ない。乾燥した舗装路面でも、マンホールの蓋や砂・砂利なんかの上でブレーキをかけるとABSが作動してブレーキペダルが振動することがある。そのため、新車を買ったばかりなのにブレーキが故障したなどとトンチンカンな苦情が持ち込まれることも少なくなく、自動車販売店では車両販売時に重要な注意点として顧客に説明している。
by nobiox | 2009-10-16 20:04 | ├読書日記 |
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