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カーボンマイナスオリンピックは可能か
前の記事では、10年後に東京をカーボンニュートラル都市に、という公約の胡散臭さについて書いた。しかしカーボンニュートラル都市が実現しなくとも、カーボンニュートラルオリンピックは実現するのかも知れない。パチンコを例にしよう。お父さんが毎週日曜日に1日中パチンコに行く。自分の小遣いでやるのであればお父さんの勝手にすりゃあいいだろうが、家計費でやってるとする。勝つ日もあればへこむ日もあり、トータルでトントンだとする。で、あれば、仮に家計全体が赤字だとしても、パチンコはそれを悪化させてはいないわけで、この場合パチンコは「マネーニュートラル」と呼べるだろう。したがって「持続可能」とも呼べる。そういう可能性はあるのだろうか。「Tokyo 2016 - 東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」公式HPにはこう書いてある。

【カーボンマイナス・オリンピックになります】
日本は世界に先駆けて、温暖化防止のイニシアチブを取り、環境技術でも先駆的なテクノロジーを誇る環境先進国です。2016年の東京オリンピックでは、そうした環境テクノロジーを駆使し、環境負荷を限りなくゼロに近づけたカーボンマイナス・オリンピックを目指しています。環境と共存する未来の都市像を世界に発信することで、地球環境問題の解決に貢献していきます。
http://www.tokyo2016.or.jp/jp/faq/answer.html
【オリンピックにより東京の環境は大きく改善されます】
我々は、環境負荷を最小化し、排出量と同等の削減策を講じるカーボン・ニュートラル以上にCO2排出量削減を達成するカーボンマイナス・オリンピックを目指しています。具体的には大会の計画段階から準備・運営・撤去段階に至るまでCO2排出量を算定し、それを大きく上回るCO2削減を実現します。
東京都はオリンピックに向け、海上森林公園の整備や全ての公立小中学校・都立学校等の校庭の芝生化、街路樹の倍増など、大規模な緑化を進め、新たに1,000haの緑(サッカー場1,500面)を生み出し、東京を「地球の森」とする計画です。オリンピックによって、環境は破壊されるどころか、大きく改善されることになります。
http://www.tokyo2016.or.jp/jp/faq/answer.html

「オリンピックによって、環境は破壊されるどころか、大きく改善されることになります」。何を言ってるんだ。海上森林公園の整備や校庭の芝生化や街路樹の倍増なんて、やるべきならやればいいし、やるべきでないならやらなきゃいいわけで、オリンピックが来ようが来まいが関係ないだろう。なぜそれが「オリンピックによって」なのか。ちなみに緑化自体は長期的に見れば大気中のCO2を増やしも減らしもしない。そのことは前のエントリーで述べた。
 東京都の公式HPにはこう書いてある。

校庭芝生化キャンペーンを実施|東京都
平成20年6月19日
環境局

 東京都は、オリンピック招致を目指している2016年に向けて、全公立小中学校の校庭の芝生化に取り組んでいます(平成19年度末74校実施)。この度、下記のとおり、校庭の芝生化事業について都民のみなさんに幅広く知っていただくためのキャンペーンを行います。
 校庭の芝生化に向けた取組の紹介や芝生の良さを訴えて、校庭の芝生化の機運をより一層盛り上げていきます。
 なお、セレモニー当日は、元日本サッカー代表の永島昭浩氏によるトークショーと握手会を行います。

緑あふれるオリンピックの開催を通じて環境の大切さを世界に伝えよう!

「緑あふれるオリンピックの開催を通じて環境の大切さを世界に伝えよう!」だってさ。もうね、アホかと。公立小中学校の校庭を芝生化することが、世界に向けて環境の大切さのアピールになる、わけがないだろう。世界中からオリンピックを見に来る観光客が、こぞって学校の校庭も見学していくとでも言うのか。BBCのオリンピック取材キャスターも校庭の芝生に目を見張り、カメラの前で、TOKYO の環境への取り組みの先進性に深甚な感銘を受けるのか。あり得ないだろう。また、もちろん校庭の芝生化とオリンピックにはどういう関係もない。やるべきならやればいいし、やるべきでないならやらなきゃいい。また、緑化自体は長期的に見れば大気中のCO2を増やしも減らしもしない。芝生化の工事のためにどれほどのトラックが走りどれほどのブルドーザーが必要なのか考えれば、短期的にもむしろ増えるような気がするんだが、正確なところは知らない。

プレスリリース - 2009年 - 水素・燃料電池実証プロジェクト -JHFC

JHFC プロジェクト燃料電池自動車で東京オリンピック・パラリンピック招致に協力
経済産業省が実施する水素・燃料電池実証プロジェクト(呼称:JHFCプロジェクト)では、2016 年のオリンピック・パラリンピック競技大会の招致を目指す「東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」および「東京オリンピック・パラリンピック招致本部」に協力し、4 月14 日(火)〜20 日(月)の日程で来日中のIOC(国際オリンピック委員会)評価委員会のメンバーの移動の一部に、燃料電池自動車(以下FCV:Fuel Cell Vehicle)を提供しました。本日、会場視察を行ったIOC 評価委員会メンバーの送迎※をFCV で行いましたので、ここにお知らせいたします。(※国立代々木競技場〜IOC 評価委員会宿泊ホテル)

2016 年オリンピック・パラリンピック競技大会開催候補4都市(東京、シカゴ、リオデジャネイロ、マドリード)のなかで、東京は都心8km 圏内でのコンパクトな開催、その都心を緑と水にあふれた環境都市に再生させ、環境に敏感なアスリート達が最高のパフォーマンスを発揮できる低炭素大会運営を行うことをメッセージとして打ち出しています。

走行中、水しか排出しない次世代環境車であるFCV は、大会の低炭素運営に貢献できる有力なクルマであり、IOC 評価委員会のメンバーにもその特徴と運用について理解してもらう目的で送迎を行いました。今回、送迎を行ったのはJHFC プロジェクトに参加するFCHV-adv 1 台、X-TRAIL FCV 1 台、FCX Clarity 2 台、計4 台のFCV です。

FCV は、水素と空気中の酸素の反応により燃料電池で発電した電気エネルギーでモーターを駆動して走る新しいタイプの電気自動車です。FCV が走行中に排出するのは水だけで環境に優しいこと、エネルギー効率が高く省エネルギー効果が期待されること、燃料となる水素は多様な製造方法があるため石油依存社会の転換に役立つことなどの理由から、次世代環境車として有望視されており、国はこの技術の実用化と普及を目指しています。

2006年時点で価格が1台数千万円から数億円で、水素の製造段階で発生するCO2はガソリンや軽油を精製するよりも多いという燃料電池自動車が長期的に見てほんとうにCO2排出量を減らすものかどうか、はなはだ疑問だ。で、仮に排出量を減らすとしても、それは大気中のCO2を減らすこととは根本的に違う。おならをほとんどしない人は、おならが少ないことを自慢してもいいかも知れないが、いくらおならが少なくても大気中のメタンガスを減らすわけではない。燃料電池自動車でカーボンマイナスが達成できると言うとしたら、おならが少ない人が「おならマイナスパーソン」を名乗るくらいにバカバカしい話だ。それに、もし、燃料電池自動車の導入がトータルな意味で地球環境にとってプラスだというのなら、オリンピックと無関係に導入すればいいじゃあないか。

例えばですよ、「すでに東京都の公用車はすべて燃料電池自動車にしました。すべての都バスも燃料電池バスにしました。それらのアピール効果によって東京都民の自家用車もすでにけっこうな比率で燃料電池自動車に置き替わっています。それが地球にも都民の家計にも優しいという明白なデータも出ています。にもかかわらず、なぜだか世界的には燃料電池自動車はほとんど普及していないのです」という状況があるのであれば、「オリンピックを通じて世界にアピール」という構想も理解はできる。しかしそんな現実は、ぜんぜん、ない。その上でオリンピック関連の用途だけ無理して高い予算を投入して燃料電池車を使うという、いわば、デートの時だけ化粧をする、みたいな、来客がある時だけ家の掃除をする、みたいな背伸びをして、しかもそこまで無理しても残念ながら「『走行中に』排出するのは水だけ」というような限定的メリットしかアピールできない、というレベルで、一体それがどういう意味で地球環境に優しいと言えるのか。少なくとも、燃料電池自動車が大気中のCO2を「吸収」しないのは間違いない。

◆ ◆

2016年東京オリンピック基本方針〈概要版〉には
東京しか持ち得ない集中と集積のメリットを最大限に活用した世界一コンパクトで高密度な大会

とある。持続可能なオリンピックと言うなら、「このノウハウを生かせば今後どこでやっても持続可能ですよ」と言えることが必要だろう。持続可能なオリンピックと言いつつ「東京しか持ち得ないメリットを最大限に活用」と謳うところが、根本的に馬鹿じゃないかと思うんだが。我々はカーボンニュートラル(またはマイナス)を目指しますよと宣言するのはいいだろうが、「東京しかできない」と言うなら、それは「持続可能」と、根本的に矛盾するのである。

・酒と蘊蓄の日々「絵に描いた餅」
by nobiox | 2009-10-14 04:44 | ├自分用メモ |
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