2009年 10月 14日
カーボンマイナスオリンピックは可能か
前の記事では、10年後に東京をカーボンニュートラル都市に、という公約の胡散臭さについて書いた。しかしカーボンニュートラル都市が実現しなくとも、カーボンニュートラルオリンピックは実現するのかも知れない。パチンコを例にしよう。お父さんが毎週日曜日に1日中パチンコに行く。自分の小遣いでやるのであればお父さんの勝手にすりゃあいいだろうが、家計費でやってるとする。勝つ日もあればへこむ日もあり、トータルでトントンだとする。で、あれば、仮に家計全体が赤字だとしても、パチンコはそれを悪化させてはいないわけで、この場合パチンコは「マネーニュートラル」と呼べるだろう。したがって「持続可能」とも呼べる。そういう可能性はあるのだろうか。「Tokyo 2016 - 東京オリンピック・パラリンピック招致委員会」公式HPにはこう書いてある。
【カーボンマイナス・オリンピックになります】 【オリンピックにより東京の環境は大きく改善されます】 「オリンピックによって、環境は破壊されるどころか、大きく改善されることになります」。何を言ってるんだ。海上森林公園の整備や校庭の芝生化や街路樹の倍増なんて、やるべきならやればいいし、やるべきでないならやらなきゃいいわけで、オリンピックが来ようが来まいが関係ないだろう。なぜそれが「オリンピックによって」なのか。ちなみに緑化自体は長期的に見れば大気中のCO2を増やしも減らしもしない。そのことは前のエントリーで述べた。 東京都の公式HPにはこう書いてある。 校庭芝生化キャンペーンを実施|東京都 「緑あふれるオリンピックの開催を通じて環境の大切さを世界に伝えよう!」だってさ。もうね、アホかと。公立小中学校の校庭を芝生化することが、世界に向けて環境の大切さのアピールになる、わけがないだろう。世界中からオリンピックを見に来る観光客が、こぞって学校の校庭も見学していくとでも言うのか。BBCのオリンピック取材キャスターも校庭の芝生に目を見張り、カメラの前で、TOKYO の環境への取り組みの先進性に深甚な感銘を受けるのか。あり得ないだろう。また、もちろん校庭の芝生化とオリンピックにはどういう関係もない。やるべきならやればいいし、やるべきでないならやらなきゃいい。また、緑化自体は長期的に見れば大気中のCO2を増やしも減らしもしない。芝生化の工事のためにどれほどのトラックが走りどれほどのブルドーザーが必要なのか考えれば、短期的にもむしろ増えるような気がするんだが、正確なところは知らない。 プレスリリース - 2009年 - 水素・燃料電池実証プロジェクト -JHFC 2006年時点で価格が1台数千万円から数億円で、水素の製造段階で発生するCO2はガソリンや軽油を精製するよりも多いという燃料電池自動車が長期的に見てほんとうにCO2排出量を減らすものかどうか、はなはだ疑問だ。で、仮に排出量を減らすとしても、それは大気中のCO2を減らすこととは根本的に違う。おならをほとんどしない人は、おならが少ないことを自慢してもいいかも知れないが、いくらおならが少なくても大気中のメタンガスを減らすわけではない。燃料電池自動車でカーボンマイナスが達成できると言うとしたら、おならが少ない人が「おならマイナスパーソン」を名乗るくらいにバカバカしい話だ。それに、もし、燃料電池自動車の導入がトータルな意味で地球環境にとってプラスだというのなら、オリンピックと無関係に導入すればいいじゃあないか。 例えばですよ、「すでに東京都の公用車はすべて燃料電池自動車にしました。すべての都バスも燃料電池バスにしました。それらのアピール効果によって東京都民の自家用車もすでにけっこうな比率で燃料電池自動車に置き替わっています。それが地球にも都民の家計にも優しいという明白なデータも出ています。にもかかわらず、なぜだか世界的には燃料電池自動車はほとんど普及していないのです」という状況があるのであれば、「オリンピックを通じて世界にアピール」という構想も理解はできる。しかしそんな現実は、ぜんぜん、ない。その上でオリンピック関連の用途だけ無理して高い予算を投入して燃料電池車を使うという、いわば、デートの時だけ化粧をする、みたいな、来客がある時だけ家の掃除をする、みたいな背伸びをして、しかもそこまで無理しても残念ながら「『走行中に』排出するのは水だけ」というような限定的メリットしかアピールできない、というレベルで、一体それがどういう意味で地球環境に優しいと言えるのか。少なくとも、燃料電池自動車が大気中のCO2を「吸収」しないのは間違いない。 ◆ ◆ 2016年東京オリンピック基本方針〈概要版〉には 東京しか持ち得ない集中と集積のメリットを最大限に活用した世界一コンパクトで高密度な大会 とある。持続可能なオリンピックと言うなら、「このノウハウを生かせば今後どこでやっても持続可能ですよ」と言えることが必要だろう。持続可能なオリンピックと言いつつ「東京しか持ち得ないメリットを最大限に活用」と謳うところが、根本的に馬鹿じゃないかと思うんだが。我々はカーボンニュートラル(またはマイナス)を目指しますよと宣言するのはいいだろうが、「東京しかできない」と言うなら、それは「持続可能」と、根本的に矛盾するのである。 ・酒と蘊蓄の日々「絵に描いた餅」
by nobiox
| 2009-10-14 04:44
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