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宇多丸師匠への私信02:「おトイレどうしてるの問題」
宇多丸師匠は「アバター」について、「せっかく異文化を描くのに、例えばおトイレどうしてるの、とかいうところをきちんと描いてないのが物足りない」みたいな発言をしておられます。いやいやいや、いくらなんでもそれは言いがかりじゃないですか。まるで、「異星生物を描いた『アバター』以外の映画」にはすべて、おトイレ描写があるかのような言い分です。師匠の大好きな「スター・ウォーズ」や「第9地区」にはおトイレ描写があったのでしょうか。

そもそも「一体全体こいつらはいつ大便と小便をしてるんだ問題」は、別に異星人ものに限らず、古今東西ほぼすべての映画が平然と無視してきたものです。まあ画面に映してないだけでカットとカットの間に済ませてるんだろう、という解釈が通常は成り立つものですが、そうはいかない例もあります。

例えば師匠が絶賛する「愛のむきだし」。後半の半ば、主人公が満島ひかりちゃんを拉致して浜辺の廃バスに監禁して三日三晩を過ごす、というシーン。ひかりちゃんはその間ずっと、後ろ手に縛られています。三晩が明けた朝、彼女がぼそっと何か言い、男は謝りながら縄を解きます。何度聞き返しても判然としないのですが、たぶん彼女は「トイレ」と言ったんだと思います。三日三晩ですよ。三泊四日の四日目ですよ。下痢してない限り、三日にわたってウンコを我慢することは不可能ではないでしょうが、オシッコは無理でしょう。三日間どうしてたんですか一体全体。

これが「ミッション:インポッシブルでトム・クルーズがレア・セドゥを監禁する」みたいなスタイリッシュムービーであれば、こんな野暮は言いませんよ。映画なんだから、美男美女はウンコもシッコもしない、という設定もアリです。だけど「愛のむきだし」は、赤裸々に露悪的に真実を暴き出そうという映画じゃないですか。それであれはないよなー、と思います。

◆◆

例えば師匠が絶賛する「風の谷のナウシカ」。ナウシカはトルメキア軍に拘束され、人質としてドルクへ向かい、そこをアスベルが急襲、風の谷の部隊は腐海の底に落下。それを救うナウシカ。トルメキア王女クシャナとの緊迫の問答。さらに、腐海の蟲に追われるアスベルを単独で救出。そこで2人は流砂に飲まれ、腐海の底のさらに底に落ちる。そこの水と砂が風の谷のものよりさらに清浄なことに気付いてナウシカは驚嘆する。息継ぐ間もない大冒険の一日です。ふたりはその清浄な砂の上で一晩眠ります。オシッコどうしたんですか一体全体。

ナウシカはおとぎ話なんだから、一種の「スタイリッシュムービー」であってもいいじゃないか、という見方もできるでしょう。だけどナウシカは「生態系のエコな循環」を主題とする映画でもあるのです。直接にせよ間接にせよ、そこは逃げないで欲しかった。例えば翌朝、2人で空を飛んでる場面で、

「オレ、悪いことしちゃったのかなあ」
「なあに? どうしたの?」
「きのう流砂に飲まれて落ちて、君が気絶してる間、オレはこの船を探しに行ってたんだけど」
「うん。わかってる。ありがとう」
「そのとき砂に穴掘って、ウンコしたんだ」
「・・・」
「あそこの砂がそんなに清浄で貴重なんだとしたらさあ、オレはそれを....」
「ふふっ。だいじょうぶ。有機物は大切よ。むしろ土壌を豊かにさせる」
「そっか。そうだよな。肥料だもんな」
「そう。私もオシッコしたよ。今朝アスベルが火を起こしてる間に、岩の陰で」
「・・・え・・・あ、・・・あーっ、うん、・・・そっか。うん」
「ふふっ。やだ。そんなに見ないで」

みたいな会話があったら、グッとよくなったんじゃないでしょうか。子供は食い付くし、大人から見ても筋が通ってるし、映画マニアから見れば「おトイレどうしてるの問題」にひとつの解を与える歴史的な名シーンだし、いいことだらけですよ。そしたらエンディングの最後の最後、「いろいろあった末に腐海の底でチコの実が芽吹く」という絵が持つ背景も、ひとつ深みを増すじゃないですか。

この辺りを突っ込んで考えていると、自分としては「腐海によって浄化された白い砂」という設定自体が、ちょっと残念なような気になって来ます。砂じゃダメなんじゃないか。だって砂漠に森は育たないじゃないですか。砂よりも、「かすかに湿り気を帯びたおがくず、みたいな腐葉土」の方がよかったんじゃないでしょうか。

「あそこの土がそんなに清浄で貴重なんだとしたらさあ、オレはそれを....」
「ふふっ。だいじょうぶ。一見さらさらに見えても、微生物をたくさん含んだ豊かな土よ。排泄物は害にはならない。むしろ土壌を豊かにさせる」
「そっか。そうだよな。肥料だもんな」

みたいに。

◆◆

今のところ、「おトイレどうしてるの問題」に誠実に向き合った映画は、「トレマーズ」しか知りません。男女3人が岩の上に退避したまま日が暮れ、仕方なくそこで寝ることになり、眠る前に暗闇でそろって小便をする。いや大便の人もいたかも知れませんが、いずれにせよ暗闇の引きのショットだから見えません。ただ "I hate to be crude, but I gotta take care of some business" "Me too" "Same here" という三者の台詞で表現されてます。訳すと「(すまんが)小便するわ」「俺も」「こっちもよ」です。数秒おいて「あーっ」と漏らす控えめな男の溜息。

ところが字幕は(まあDVDにもいろんなバージョンがあるのかも知れませんが、私がTSUTAYAで借りたヤツは)「用をたしたいのに」「俺もだ」「私も」となってるんですねー。「のに」ですよ。「のに」。これじゃあ、トイレに行けないことを嘆いて尿意を我慢する、としか解釈できません。ひどい。ああ、ほんとうにひどい誤訳だ。
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by nobiox | 2015-11-01 13:52 | ├映画 | Comments(0) |
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