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完全ネタバレ「火車」全ストーリー
ブックオフで単行本が100円だったので買ってみました(ちなみに文庫本は550円だった)。こんな分厚い小説、たぶん途中でやめるだろうな、と思いつつ買ったのに、意外なことに2日で読了。その後1週間でまた再読。できれば、この記事は読まない方がいいですよ。いちおう警告。




00
1992年1月20日(月)雪の降る夜。刑事(本間俊介、団地住まい、犯人に脚を撃たれて休職中)が、遠い親戚(女房の従兄弟の息子。栗坂和也29歳銀行マン)から人探しを頼まれる。失踪したのは彼の婚約者、関根彰子(せきねしょうこ)28歳。和也の取引先の事務員。つき合って1年4ヶ月。クリスマスに婚約したばかり。ただし和也の親は反対している。彰子は天涯孤独で身寄りなし。宇都宮出身で、高卒で上京して今は方南町のアパートに一人暮らし。

結婚を決めて、ふたりで家具とか買い物してるうちにクレジットカード持ってないことがわかったので、作るように勧めた。彰子もすんなり承知して、申し込み用紙にいろいろ記入。僕はそれを銀行系列のカード会社へ回した。したら数日後、そのカード会社の同期から電話かかって来て、カードは作れんと。つか、この女ヤバいよと。銀行系と信販会社系、両方のブラックリストに載ってるよと。はぁ? 彼女はクレジットカードを持ったことがないんだぞ、そんな人間がどうやったらブラックリストに載るんだよ、と。だけど載ってるんだからしょうがないだろ、と。

さらに調べてもらったら、1987(昭和62)年5月付けで信販会社に郵送されて来たワープロ文書「関根彰子に依頼された弁護士です。関根さんは自己破産手続きをしましたのでもう取り立てやめてね」というのが出て来た。彼女は5年前に自己破産してたのだ。文書を本人に見せたら否定せず、ただ青ざめた。

青ざめて、これには深い事情があるの、少し時間をちょうだい、と。それが5日前。で、そのまま翌日から音信不通。説明もなく、弁解もなく、言い争いもなく。勤務先も無断欠勤。方南町のアパートからは最低限の衣類やら通帳やらだけが消えていた。僕は親にも職場にも内緒で探したい。だから興信所には頼めない。おじさん頼むよ。

01
1月21日(火)以下すべて刑事視点。ただ、刑事とは書くけれども、休職中の刑事には警察手帳見せたり刑事だと名乗って捜査したりする権限はなく、その意味では無力な一般人。その一般人の刑事が、まず関根彰子の勤務先へ。今井事務機。新宿の雑居ビルの2階で、従業員は社長、関根彰子、みっちゃんの全3名。関根彰子の履歴書ゲット。顔写真付き。美人。履歴書の日付は1990(平成2)年4月15日。

履歴書にある前勤務先を調べたら、3社とも架空の会社だった。

自己破産通告を書いた弁護士溝口悟郎を訪ねる。5年前に自己破産した関根彰子は、2年前、死んだ母親の保険金のことで相談に来ていた(1月25日)。当時の勤め先は新橋のスナック「ラハイナ」、住所は川口市。そして。念のため履歴書の写真を見せて確認をとると、今井事務機に勤めていた女は、関根彰子(本物)とは別人であることが判明。以下、女を「偽彰子」と書く。

方南町の偽彰子のアパートを調査。ところで刑事の亡き妻は、換気扇はガソリンで掃除するのがいちばん、という主義の人だった。この日ベランダでガソリンの小瓶を発見し、妻と同じ流儀を持つ女に少しシンパシーを抱く。ガソリン瓶以外の成果は、和也と撮った写真アルバム一冊のみ。アルバムから、住宅展示場のポラロイド写真を発見。

02
1月22日(水)方南町の役場で、偽彰子の住民票と戸籍謄本を入手。戸籍は2年前の4月1日に、宇都宮から方南町に分籍されていた。1990年1月25日、彰子(本物)は弁護士に会い、以後は消息不明。偽彰子は4月1日に戸籍の手続き、4月15日に今井事務機で面接。戸籍を乗っ取ったのだとすると、その間だ。

他人の戸籍を乗っ取るに当たって想定される障害(国民健康保険、生命保険、雇用保険、免許証、パスポートなど)に関して、団地階下の住人伊坂夫妻と問答。

川口市「コーポ川口」へ。弁護士事務所の記録から考えて、ここに住んでいたのが本物の関根彰子なのは間違いない。大家は紺野信子。関根彰子は1990年3月17日(土)に夜逃げしていた。しょうがないから残された家具とか服とかはガレージセールやって売った。アルバムだとか書きかけの家計簿みたいなものは売れないし捨てるのも気持ち悪いので小さな段ボール箱にとってある。その中に手書きの電話番号のメモ。「ここにかけてみたことはありますか?」「ええ。関根さんの友達かも知れないと思って」「どうでした?」「ここにかかったの」と大家は、ぽんと段ボール箱を叩いて見せた。「え?」「ローズラインですよ」。段ボールに「ローズライン」のロゴ。女性向けの下着を扱う通販会社だという。

これ、こんなふうに書くと明らかにこれが後々効いてくる伏線だなとわかっちゃうけど、実際の原作は後々の展開といっさい関係ない膨大なディテールに溢れているので、何が伏線で何が無駄なのか、そうモロにはわからない。
 警視庁の同期「碇貞男」に電話。関根彰子の雇用保険記録と除籍謄本を入手依頼。
 夜9時、銀行マンを家に呼んで経過報告。バカ銀行マン逆上、決裂。

03
1月23日(木)ランチタイムのうどん屋「長瀞」に溝口弁護士を再訪。自己破産者は特別なダメ人間なんかじゃない、むしろ生真面目な小心者が多い、彼らはクレジットカード万能社会の犠牲者なのだ、という弁護士の長い長い熱弁。

夕方、団地に碇刑事がやってきて雇用保険情報(雇用保険が被保険者番号がダブって2通発行されていた)と、除籍謄本(本物の関根彰子の引っ越し歴)を入手。

04
1月24日(金)スナック「ラハイナ」。
関根彰子の母(宇都宮に住んでた)の2年前の事故死についてプチ噂情報。

05
1月25日(土)宇都宮へ。関根彰子の母は1989年11月25日に階段で転落死したのだが、行ってみたら宇都宮はおそろしく平べったい土地であった。ロレアルサロンの宮田かなえに話を聞く。転落したのは山とか公園とか神社とかではなく、3階建ての古いビルの階段であった。所轄署は事故死(若干自殺の疑いもあり)と結論した。葬式には、本多のとこの保っちゃん(たもっちゃん)が来てたわねえ。

保っちゃんを訪ねて本多モータースへ。彼は関根彰子の幼馴染みで、彼女をしいちゃんと呼び、2年前に失踪したしいちゃんを心配していた。

保っちゃんと、その妻郁美と3人で居酒屋。ついに関根彰子の写真をゲット。
マチコ先生(脚のリハビリ担当の理学療法士。関西弁でSキャラ。東京の男を見下している)情報で、ポラロイドの住宅展示場は大阪球場だと判明。

06
大阪へ。今井事務機で偽彰子の履歴書を見たのはもう十日ほど前だろうか、という記述があるので、もう何月何日だかわからない。

大阪球場で聞き込み。ポラロイドの住宅は三友建設傘下のものと判明。
三友総合研修センターへ。
三友グループの中に通販会社「ローズライン」があることを発見。
 ローズラインへ。ローズラインの通販申し込み用紙に、住所氏名職業電話番号生年月日独身か既婚か家族構成持ち家か借家か転職経験、資格の有無、海外旅行経験の有無、貯蓄額、趣味特技等々、膨大なアンケートがついてるのを見る。偽彰子はここで、戸籍を乗っ取る条件(自分と年齢の近い、かつ身寄りの少ない女性)に合致するターゲットを見つけ出したと確信。

ついに偽彰子の知人に出会う。管理課長補佐・片瀬秀樹。
片瀬の協力で関根彰子がたしかにローズラインの顧客だったことが判明。最初のカタログ請求は1988年7月。

片瀬の協力で偽彰子の履歴書ゲット。名前は新城喬子。本籍は福島。採用は1988年4月。ということは高卒から4年経過している。
「その4年間は何をしていたと言ってましたか?」「それが……高校を出てからしばらく勤めて、それから結婚してたいうてました。若過ぎて失敗した、とか」退職は1989年12月31日。ただしローズラインのシステム管理は厳重なもので、事務員に過ぎない新城喬子が顧客情報にアクセスすることは不可能。

重大情報。勤務表によると、関根彰子の母が宇都宮で階段から落ちて死んだ日を含む9日間、新城喬子は会社を休んでいた。名目は病欠。当時は千里中央駅近くのマンションに、市木かおりというルームメイトと住んでいた。

新城喬子の履歴書の住所を辿って戸籍謄本の入手を、碇刑事に依頼。

07
保っちゃんが上京し、調査に合流。手土産に宇都宮での新城喬子の目撃情報。2年前の1月14日、関根彰子の母の四十九日。見たのは保の母親。場所はロレアルサロンの前。
 関根彰子が新城喬子に殺された、ということはすでに刑事も同期も伊坂夫妻も確信している。しかし物証も死体も何にもない。いつどこでどうやって殺しただとか、何もわかってない。死体はどこにあるのか。知り合いの雑誌記者に、未解決のバラバラ死体遺棄事件の情報収集を頼む。範囲は関東近辺と、甲信越。

08
弁護士事務所の紹介で、関根彰子が破産後に寄宿させてもらっていた女性と面会。宮城富美恵。スナック「ゴールド」の同僚。彰子ちゃんは川口にいたころ、郵便物が開けられてる形跡がある、って言って気味悪がってたことがある。あの娘、お母さんの保険金が下りて、破産以降久々にちょっとまとまったお金持ってたから、余計にピリピリしてて。それでお墓を買いたいなんて言うから、言ってやったの。いまどき百万や二百万で墓所が買えるもんですかって。なんだか知らないけど見学会にも言ったそうよ。刑事はコーポ川口で墓地のパンフを見たことを思い出す。コーポ川口に電話して確認。パンフはみどり霊園。

茗荷谷のみどり霊園本社にて、霊園見学ツアーの集合写真を確認。1990年2月18日。ズバリ、そこには関根彰子と新城喬子が並んで映っていたーっ。

09
雑誌記者がまとめてくれた「未解決の、女性の、バラバラ死体事件」情報をチェックすると、これだと思えるのが1件。1990年5月、山梨県韮崎市内の墓地のはずれから若い女性の腕、胴、脚が見つかっていた。時期的にも符合する。頭部は未発見。

新城喬子の戸籍や除籍謄本やなんかからたどって、伊勢へ。彼女はここで結婚と離婚を経験していた。倉田不動産の御曹司、倉田康司。彼の口から語られる、リアル新城喬子のプロフィール。

彼女は福島県郡山に生まれた。一家は住宅ローンが払えず、過酷な取り立てに怯え、このままじゃ喬子が風俗に売られるんじゃないかという恐怖もあり、夜逃げしていた。ときに1983(昭和58)年春、当時17歳の喬子は高校中退。

一家はいったん東京の親戚に身を寄せ、その後離散。父は山谷へ。母娘は名古屋へ。1年後、入院した父を母が見舞い、その油断からまた捕まって酷いことになって、喬子は母が帰って来ないから危険を察知して名古屋のアパートを引き払い、求人広告を見て伊勢市内の旅館で住み込みの仲居となり、そこで倉田と出会う。酷いことから逃げ出して来た母とも再会を果たすが、遊びのつもりだった倉田が本気になる。そして1987年6月、結婚。

ところが結婚すると郡山の戸籍にその事実が載るんですねー。戸籍を監視していた取り立て屋が伊勢まで押しかけてきた。喬子には法律上は返済義務がないため、自己破産もできない。父は行方不明。行方不明の届けを出せば「最後に会ってから7年」で死亡認定されるが、連日の嫌がらせに7年耐えられる見込みはない。一連の騒ぎで倉田不動産は取引銀行をひとつ失った。守りきれず耐えきれず3ヶ月で離婚。

喬子が名古屋で世話になったという先輩「須藤薫」の住所氏名をゲット。

10
刑事が伊勢に行ってる間の保っちゃんの宇都宮聞き込みの成果。関根彰子本人の卒業アルバムが発見されていた。同級生のカズちゃんが持っていた。しいちゃんからカズちゃんのところに小包で送られて来たという。東京での暮らしがうまくいってないから、楽しかった高校時代のアルバムを見ると辛くなる、申し訳ないけどカズちゃん預かっておいてくれませんか、と、ワープロの手紙が入ってた。保はそれを見て、ああ、これはしいちゃんが書いたんじゃない、と確信。なぜならしいちゃんは学校時代に楽しいことなんかひとつもなかった、とよく言ってたから。カズちゃんが寄せ書きのところに「一生親友でいようね。野村一恵」とか書いてたので、それを見て新城喬子が送って寄越したんだ、と。実際にはそもそもしいちゃんとカズちゃんは親友でも何でもなかったし。オレ、ようやくしいちゃんの死を確信しました。

須藤薫の現住所はなかなか掴めない。

新城喬子の元ルームメイト(休暇旅行から帰ってきた)に電話取材。市木かおり。ローズラインのコンピューター室勤務。「片瀬さんは新城さんに惚れていた」「新城さんは免許証を持っていた」「新城さんはコンピュータにはまるっきり無知だった。片瀬さんも似たようなもんで、専門職のうちらから見たら素人同然。どっちもデータ盗み出すなんてことは不可能」「新城さんはきれい好きで几帳面で、節約チャーハンがおいしかった」「新城さんは換気扇の汚れ落としにガソリンを使っていた。私はガソリンいややった」「新城さんは何故か東京の新聞をとっていた」「私が新城さんに顧客データ流す? はは、そんなことするわけあらへん。バレたらすぐクビですやん」

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碇刑事を頼って須藤薫を発見、名古屋で面会。喬子ちゃんと知り合ったのは喬子ちゃんが17歳のとき。お父さんの借金のことも聞いていた。結婚前も連絡くれた。離婚後も何度か来てくれたけど、今は2年近く音信不通。喬子ちゃんは1989年11月19日にひどい火傷を負った。本人は「知り合いとドライブ中の事故」だと言い、それ以上の説明を拒んだ。それから26日まで、名古屋の病院に火傷で入院していた。つまり関根彰子の母の転落死(11月25日)に関して、完璧なアリバイがあった。

この時点で、解決しなくてはならない謎がふたつある。新城喬子はどうやって関根彰子の母を殺したのか。新城喬子はどうやってローズラインの顧客データにアクセスできたのか。

新城喬子はもしかして、あらためて別の誰かの戸籍を乗っ取ろうと企てるのではないか。それをやるにはあらためて通販の会社に就職するところから始めるのか。

保っちゃんは郁美のおかげで思い出す。そうだ、オレは小学校のときしいちゃんと一緒に「飼育部」だった。迷い込んで来た十姉妹をピッピと名付け、世話をしていた。ピッピが死んだとき、しいちゃんはひどく悲しみ、校庭の隅に墓を掘って埋めるときもずっと泣いていた。「私が死んだらピッピと一緒に埋めてね」と真剣に言った。しいちゃんはもしかして、墓地見学ツアーなんかのときに新城喬子にその話をしたのではないか。卒業アルバムの扱いなんかから見て妙に義理堅い新城喬子はそれを覚えていて、宇都宮の小学校の校庭にしいちゃんの頭部を埋めたのではないか。

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日曜日。保っちゃんは校庭を掘るとか言って、興奮しながら宇都宮へ。
 刑事は思う。そうだ。ローズラインで、コンピュータに打ち込む前の、紙のアンケート用紙。新城喬子はもしかして、それを見たのではないか。

13
翌日大阪へ飛び、片瀬を問い詰めると渋々認めた。入力後のアンケートや注文書は、月に一度処分する。その間は地下倉庫に置いてある。片瀬は新城喬子に頼まれて、それを持ち出して喬子に渡していた。5月から8月まで、4回。名簿屋にでも売るんちゃうかな、と思っていた。新城喬子は肉体関係をもって片瀬を意のままに操っていた。

君の上司には黙っておいてやるからその代わり、と片瀬を脅し、その4ヶ月の間の新規顧客のデータをプリントアウトさせる。160件。果たして関根彰子の名はそこに含まれていた。というか関根彰子の最初のカタログ請求がその年の7月なのはもう確定してるので、あるのは当たり前なんだが。分厚い紙の束を見て思う。彰子のデータは7月分にあるのに、8月まで続けている。条件面で、彰子を必ずしも絶対的な候補とは考えていなかったということだろう。果たして彰子は、新城喬子の第一候補だったのか。候補は何人かいたのではないか。いや、いたに違いない。
 もし、新城喬子があらためて別の誰かの戸籍を乗っ取ろうと企てるとしたら、何もあらためて通販の会社に就職するところから始める必要はない。この中のめぼしい候補のデータを、新城喬子は持ってるんじゃないか。

11月19日、ひどい火傷を負ったというその日、新城喬子は第一候補に何かを仕掛けて失敗し、火傷を負ったのではないか。そして入院中に偶然、別の候補だった彰子の母が階段から転落死したことを知り、ターゲットを彰子に方向転換したのではないか。
 書いてないけど戸籍を乗っ取るターゲット本人は、死体も発見されないくらい隠密裏に殺す必要がある。したがって、仕掛けた何かというのが放火だとしたら、ターゲット本人ではなく、その身寄りを狙った放火だということになる。

東京に戻り、160件の顧客データ中、20代の女性に片っ端から電話して「ここ2年ほどの間に災難に会った身内はいないか」を確認。声が嗄れる頃、ついに発見。木村こずえ22歳(これは1989年に22歳だった、という意味だろうか。だとすると現在25歳、フリーター)。3年前の11月、火事で姉が大怪我、以降は植物人間になり、最近亡くなった。調べてみると火事はたしかに11月19日で、放火の疑いがあった。

あなたには最近、新しい女性の知り合いはできてないか、と聞くと、はい、新城喬子さん。姉の知り合いだそうです。姉が亡くなったことを知らなかったと、すごく済まながってくれて。お墓参りしたいから案内してと頼まれました。それで今度の土曜日の午後、銀座で会う約束になってます。

14
成果を報告がてら保っちゃんを迎えに宇都宮へ。校舎もすでに建て替えられていて、校庭を掘るというのは案外むずかしいのだった。それよりも、保っちゃんは新城喬子の目撃情報をゲットしていた。2年前の春。小学校の校庭で満開の桜を眺め、じっとたたずむ若い女性がいて、気になった事務員が声をかけた。ええ、この写真の人に間違いないです。美人だったからはっきり覚えてますよと。彼女は事務員にこう言った。友達の代わりに来た。友達はもう死んでしまった。その友達は昔、この小学校に通っていた。学校で飼ってた十姉妹が死んだとき、校庭の隅にお墓を作って埋めたらしい、それがどこなのか、もうわからないけれど、と。

14
銀座のおしゃれなイタリアン・レストラン。先に待ってる木村こずえ。配置につく刑事と保っちゃん。向こう側には碇刑事。来た。新城喬子が店内を見渡し、木村こずえ(らしいと判断した)を見つけて微笑みかけ、向き合って座る。新城喬子を確保。ふっつりおしまい。


◆◆

名作だ。以下はどうでもいいアラ探し。「片瀬の協力で関根彰子がたしかにローズラインの顧客だったことが判明(06)」とか「片瀬が刑事に脅されて顧客のデータ160件ぶんをプリントアウトした(13)」とかは、「片瀬さんなんかうちらから見たら素人同然。顧客データにアクセスなんてできるわけあらへん」という市木かおりの証言(10)と矛盾している。

というか、「コンピュータのプロ以外は顧客情報にアクセスできない(10)」という設定はそもそもおかしくないか。それじゃ顧客情報が販売促進の役に立たない。「アクセスはできるけどプリントアウトを持ち出したりフロッピーにデータをコピーして持ち出すとかは、上司の許可がない限り不可能」くらいだと思う。やっぱり「上司の目を盗んで顧客のデータ160件ぶんをプリントアウト」は無理なんじゃないか。

◆◆

「20代の女性に片っ端から電話して声が嗄れた(13)」もおかしい。「身寄りの少ない一人暮らし、あるいは兄弟とふたり暮らしで両親はすでに死亡、とか、そういう条件を満たす20代の女性」に絞れるはず。同時に平行して、「1989年11月19日に関東近辺で起きた放火事件」も調べられるはず。放火なんて1日に5件も6件も起きないだろう。顧客データにある電話番号で木村こずえにつながった、というのもいささか不自然な気がする。放火されて同居の姉が植物人間になって、それでもそのアパートの近所に住んでるのか。まあ、あり得ないってことはないけど。

◆◆

しかしいちばんおかしいと思うのは、喬子が「関根彰子の自己破産通告を見せられて失踪する」という、喬子のその判断だ。だって人ひとり殺してまで手に入れた名前ですよ。殺しなんてそうそう何回もうまくいきませんよ。「もう1回人を殺し、もう1回完全犯罪を成功させる」確率に賭けるよりも、よほど確率の高い、別の選択肢があったのではないか。

「すべての謎を謎のままに失踪」というのが一方のいちばん極端な選択だとして、逆側の最も極端な選択として「婚約者にすべての真実を洗いざらい告白した上で、味方になってくれ、死ぬまでこの秘密を共有してくれと訴える」というのが、まず、ある。

もちろん、いくら愛情があっても、じつは私は関根彰子さんを殺して戸籍を乗っ取ったの、なんて告白に耐え、受け入れられる度量を期待するのはむずかしいだろう。だからこの両極端の間の、グラデーションのどこか、だ。
 あくまで自分は関根彰子だというスタンスは守り、「実は自己破産した過去があるのです、クレジットカードを作れとこのたびあなたに勧められて、もう大丈夫かも、と甘い考えで深く考えずに承諾したけど、やっぱり過去からは逃げられないのね。軽蔑した? ごめんなさい」というのがひとつの出方。
 あるいは、「じつは自分の本名は××××、出身は××××。父親が住宅ローンで破綻して一家離散、取り立て屋に追われる過酷な青春の日々、もうどうしようもなくて死を覚悟したとき、当時勤めてたスナックのママさんが、戸籍はお金で買える、と教えてくれたの。ママさんの紹介で『社長さん』に引き合わされて、20万円出せば後腐れのない戸籍を売ってあげる、って言われて、買ったの。関根彰子さんがどういう人なのか、実在するのかしないのか、私は何も知らないの。でも、たった20万円で人を殺すとは思えないから、死んだとは思ってないの。どこか外国で生きてるのかも。売買される戸籍っていうのは『行方不明になったけど捜索願が出されてない人』の戸籍だって、社長さんは説明してた。たぶん自己破産歴のことは社長さんも知らなかったんだと思うの」とかなんとか。
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by nobiox | 2013-07-21 19:47 | ├読書日記 |
1月2日に「江の島」「猫 首輪」の検索履歴
「真犯人」メールの文言を検索=片山被告、検察が証拠開示―PC遠隔操作
時事通信 7月10日(水)23時14分配信
 遠隔操作ウイルス事件で、「真犯人」を名乗る人物から報道機関などに送られたメールに書かれていた文言を、片山祐輔被告(31)が携帯電話などで検索していたことが10日、分かった。同日、検察側から証拠開示を受けた弁護側が記者会見し、明らかにした。
 弁護側によると、検察側は、片山被告が携帯電話を使い、1月2日に「江の島」「猫 首輪」を、昨年11月には「調書作文」「検察官作文」といった文言を検索していたなどと開示した。
 いずれも昨年10月~今年1月、真犯人から送られた4通のメールに書かれていたと説明しているという。
 検察側は、こうした検索履歴を根拠に「片山被告がメールを作成した」と主張しているといい、弁護側は「メール作成の事実自体を立証すべきだ」と反論した。
 主任弁護人の佐藤博史弁護士は「決定的な証拠はなく、無実を明らかにできる」としている。


Wikipediaによれば「江の島 猫 首輪」の最初の登場は、真犯人を名乗る差出人が1月5日に送信したメールであり、当然ながら世間に報道されたのもそれ以降なので、1月2日に「江の島」「猫 首輪」を検索してたとしたら、かなり怪しい。少なくとも、どういう意図でそんな言葉を検索したのか説明を聞きたくなるところだ。しかし。

どういう意図でそんな言葉を検索したのかと被疑者に尋ね、記憶にないとか、したかも知れないけどそれは世間で「江の島 猫 首輪」が話題になってたからであって、1月2日だなんてあり得ない、と返事が返ってきたらどうするんだ。この証拠が検察のでっち上げじゃないかと疑うべき根拠は、まことに残念ながら、いくつかある。

◆◆

第一に、検察には証拠改竄の前科がある。大昔の話ではない。わずか4年前だ。しかもその改竄は、具体的には「データの作成日時の書き換え」だった。例えばの話、被疑者は2月1日に「江の島 猫 首輪」について調べたのかも知れない。当時ワイドショーは連日この話題だったから、1月に江ノ島で猫を撫でたりなんかしてた人が、気になって検索するのはごく自然なことだ。検察がその日付を1月2日に書き換えたのかも知れない。連中はそう疑われても仕方ないのではないか。

第二。1月2日時点での「江の島 猫 首輪」という検索履歴が事実だとしたら、たしかに怪しい。事件と無関係だと考えるには不自然だ。しかし逆に、真犯人がそんな検索をするだろうか。あなたがギャングだとして、銀行襲撃決行の前夜、「銀行強盗 渋谷 マスク」とか検索しますか。どうにもこれは「不自然な証拠」だ。事件と無関係だと考えるには不自然で、同時に、真犯人だとするとそれはそれで不自然である。検察のでっち上げだと考えるのがいちばん納得しやすい。

第三に、タイミングが怪し過ぎる。この事件に限らず一般的に警察や検察というものは、決定的っぽい証拠はホイホイ積極的にリークするものだ。その方が「やっぱりあの人は悪い人なのね」「やっぱり検察は正義の味方ね」という世間の心証形成に役立つからだ。今回のは2月10日に逮捕して家宅捜索もして携帯もパソコンも押収し、被疑者がショップに売ったスマートフォンも押さえ、そうして5月22日の第1回公判前整理手続きを迎えてなお、検察は被疑者と事件の関連をいっさい示さなかった。示さない理由は「罪障隠滅のおそれ」だと言うんだが、リーク好きな検察の体質を考えれば、「ないから出せなかった」と考えるのが自然だろう。6月21日の第2回公判前整理手続において、被疑者と事件の関連を示す書面を「7月10日には提出します」と検察が約束し、そうして迎えた7月10日、ようやく出て来た話が「1月2日の検索履歴」だ。検索履歴くらい、パソコンやらスマホやら押収したら真っ先に調べるだろう。5ヶ月かけて解析したのか。どうしてそんなにかかったのか。

それとも、ずっと前にわかってたけど証拠隠滅を怖れて隠していたのか。被疑者は拘束していて、しかも接見禁止で、しかもパソコンやらスマホやら一切合切を物理的に押えた状況で、どこにどう「罪障隠滅のおそれ」があったと言うのか。怪し過ぎないか。

◆◆

それとさー、「検索していたことが10日、分かった」とか書くの、いい加減やめませんか。ジャーナリストの矜持はないのか。お前らは検察の犬か。「検索していたと、10日、検察が主張した。検索履歴を調べるのに何故5ヶ月をも要したのか、今回の事件を巡って具体的な証拠を開示しない理由を、検察は従来『罪障隠滅のおそれ』としていたが、接見禁止状態で拘束されている被疑者がどうやって証拠を隠滅できるというのか、など、検察の主張には不自然な点もある」と、どこでもいいから一社でも書いたら、間違いなく話題になり、その新聞は部数を伸ばすと思うんだが。
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by nobiox | 2013-07-12 19:59 | ├自分用メモ |
欧羅巴陰毛事情 2 - むだ毛のない肌、欧州男子の常識
後記:◉1:欧米では毛ジラミが絶滅に向かっている。◉2:理由は陰毛を処理する女性が(さらに男性も)増えたから。◉3:増えた理由はテレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」の中で、サラ・ジェシカ・パーカーがブラジリアンワックスで脱毛する、というエピソードがあり(2000年放映)、それが欧米の女性の脱毛指向に決定的に市民権(特別なセレブ、あるいはポルノ女優だけでなく、一般人のツルスベもアリだという)を与えたのである。以上3点とも、イギリス皮膚科医会(British Association of Dermatologists)の見解。だそうです。2013/7/8 の「バイリンガルニュース」でマミちゃんがそう言ってました。

彼女の私見では「日本の女のコはほぼ100パーセントが下の毛生やしっぱなしのジャングル状態。温泉とか行くともうほんと、トラウマになるくらい。個人的にはかなりショッキング。逆にこっちの方が恥ずかしい」(って、あんたはどこで育ってどういう処理してるのか言ってくれないと、なに言ってるのかよくわからない)。「逆に日本は腕の毛はすごい気にするけど、アメリカとかだったら有名な女優でも腕の毛生えまくり。普通に生えてる」「脇毛? あー、ヨーロッパもけっこうねえ、あの、スペインとかも、きれいな女の人でも意外と脇毛そのまんま生えてたりして、きゃ、って思う」「毛事情は国によって大きく違う」だそうです。後記終わり。

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Tom Wesselmann: "Bathtub 3" 1963


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Tom Wesselmann: "Great American Nude #92" 1967
いずれも、脇毛は剃ってて陰毛は生えてる。



以下2枚は1992年公開の映画「エイリアン3」の導入部。
宇宙船で遭難したリプリーは、小惑星「フューリー161」の医務室で意識を取り戻す。
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坊主頭の医師:「髪を剃らせてもらう。ここじゃ毛ジラミがヤバいんでね」
(フューリー161の住人は全員が丸坊主なのである)
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「後でバリカンを渡すから、下の方は自分でやってくれ」
1992当時のアメリカでも、男女とも陰毛はあって当たり前、という前提が感じられる。




◆◆

以前「欧羅巴陰毛事情」という記事を書いたんですが、その後、今年5月3日付けの朝日新聞に「むだ毛のない肌、欧州男子の常識」という署名記事が載った。書いたのは朝日新聞の玉川透記者、前ウィーン支局長。素晴らしい記事だ。かつての週間文春の「[香川] [本田] 両エースは何故「下の毛」を剃っているのか」なんていう浅い記事とは比較にもならない。従来も男の陰毛についてのまとまった考察(というかデータ)というものは多少は存在したが、脇毛についての突っ込んだ調査を見たのは初めてだ。間違いなく「玉川レポート」として後世に語り継がれるであろう。

「欧羅巴陰毛事情」を書いた時点では「西洋の男は陰毛を優先的に剃って脇毛を剃らないのか、なぜだ」という疑問を持っていたのですが、玉川レポートによるとこれは疑問自体が的外れで、実情は脇毛の方が優先的に処理される(べきだという女子による同調圧力が存在する)らしい。「脇毛ボーボーの男は絶対無理」「彼氏がそんなだったら別れる」とまで言われている(2013年現在)。

脇毛を剃ってる白人メンズの動画も、まとめてみっつ発見した→イケメンうっとり英会話

この、宝石のような玉川レポートは、導入部だけなら「朝日新聞デジタル」で誰でも読める。朝日新聞デジタルに会員登録(無料だが、メチャクチャ面倒くさい。朝日死ね)すれば全文読める。登録したくない人でも日本在住であれば、ご近所の図書館に行けば新聞か新聞縮刷版で全文読めるはずだ。2013年5月3日の朝日新聞です。興味ある方はぜひ全文をお読みください。

ここにもできれば全文転載したいけどそこは我慢して、記事中、事実として挙げられている部分だけを箇条書き的に列挙します。




●パナソニックが2013年3月に発表した調査:
ドイツ人男性の62%が脇毛を処理している。
日本人男性の10%が脇毛を処理している。
「処理」の定義をはっきりさせずに「あなたは脇毛を処理していますか?」という調査やっても意味ないと思うの。「オレは毎朝デオドラントクリームを塗り込んでるからイエス」と答える人と、「デオドラントクリームは使ってるけどそれを処理とは言わんわなあ。だからノー」と答える人が混在しちゃうじゃないか。日本人男性の10%が脇毛を剃ってるだなんて到底信じられないので、「処理」の意味がいろいろに解釈された結果じゃないかと思う。

そう言えば誰だったか、日本人の男子水泳選手が体毛について語るのをテレビで見たことがある。誰だったか忘れたけど北島康介より前の世代の選手。「やっぱ水の抵抗を少しでも減らしたいから、オリンピックとか、大事な試合の前には全身剃りますよ。剃ってもらう人も決まってて。腕とか脚とか背中とか全部。え? 脇毛ですか? 脇毛は剃らないですね」と言ってました。
●玉川透記者(朝日新聞)によるマルセル・グエンインタビュー:
ベルリン郊外で合宿中のマルセル・グエン選手(25歳/ドイツ)ロンドン五輪銀メダリスト:「脇毛だけじゃなく手も脚も全部剃ってる。欧州では常識じゃないの。ウチムラ? ハハ、航平・内村の脇毛はロンドンの時チーム内でも話題になってたよ」
 むだ毛はデリケートな話でもある。取材に応じてくれたグエン選手は、身長167センチ、体重60キロ、芸能人のような小顔。そんなイケメン銀メダリストに「『全部そる』とは、あそこの毛もか?」と臆面もなく尋ねた。のりのいいグエン選手もさすがに「え……」。広報担当からも待ったがかかった。
二枚目系に下ネタはタブー、という暗黙のルールはドイツにも存在するようだ。貴重なレポートだ。進撃の巨人におけるイルゼ・ラングラーのノートのように。

しかし一流アスリートの常識は一般人の常識と乖離してるかも知れない、と考えた玉川記者は、一般の男性にも聞いてみるべく、「知己を頼って、音楽の都ウィーンに飛んだ」。いや、そう書いてあるから。無知なわたしはこれを読んで「音楽の都ウィーン」はドイツにあるのかと思い、ググってようやく、ああ、オーストリアね、と知りました。「一般の男性にも聞いてみるべく、ベルリンからウィーンへ」。ドイツには一般の男性がいないのだろうか。まあ、前ウィーン支局長だからウィーンに人脈があるのはわかるけど。
●玉川透記者による一般オーストリア人男性1名(32歳/学生)へのインタビュー:
5年前、バスケット仲間に勧められて全身の体毛を剃った。はじめは抵抗感もあったが、次第に「生まれ変わったような快感」が病みつきに。素肌がすれる感覚がまたいい。今では数週間おきに浴室にこもり、約40分間むだ毛と格闘する。尻など見えない所は鏡を立てかけ、確認しながらカミソリで入念に。生えてきた新しい毛のチクチクが不快で、また剃る。もう戻れない。まるで麻薬です。
アスリートは特殊かも知れないから一般人に話を聞こう、というのがウィーンへやってきた理由なんだが、それにしてはずいぶん特殊な(ように思える)サンプルをひとつだけ採取して終わりとか、この辺りはちょっとよくわかりません。

●玉川透記者によるウィーン街頭リサーチ(対象は15~83歳の女性20名):
内村航平とマルセル・グエンの両選手のガッツポーズ写真を見せて「違和感がないのはどっち?」と質問。結果は20対ゼロでグエンの圧勝。理由は「清潔感がある」「見た目がきれい」。ウチムラの脇毛は「臭そう。彼氏なら別れる」(15歳)、「脚の毛はいいけど、脇は絶対だめ」(29歳)。「何でも多すぎはダメ。毛がなくても、男のワイルドさは伝わるものよ」(83歳)。
一方陰毛については、年代により温度差がある。10~20代のほとんどが「彼氏には剃って欲しい」。30代以上はおおむね「そこまで求めない」「陰毛はむしろセクシー」。主婦のシシーさん(50)は「19歳の息子が全部剃るよう彼女からプレッシャーをかけられ悩んでいる。今の男は女の言いなりだ」と嘆く。

●玉川透記者によるバーデンのサウナ実態現地調査:
ウィーン郊外の温泉保養地、バーデンにて。男女共用のサウナは全員すっぽんぽん。剃ってる人は案外多くない。というかブロンドの毛は目立たない。常連のペーターさん(58)の意見:「見た限り、同世代の半分は剃っていると思う。俺も剃ろうかな(笑)」
バーデンのサウナの件は脇毛のことか陰毛のことかはっきり書いてないが、「あれれ? あそこの毛が濃くないぞ。恐る恐る1人に声をかけた」とあるので、たぶん陰毛のこと。上の Tom Wesselmann の絵にあるように、髪が金髪でも陰毛は黒い、という人は多いんじゃないかと思ってたけど、玉川記者の見聞ではそうでもないのかも知れない。とにかく、はっきりわかるように書いてないので、はっきりわからない。

●ライプチヒ大学(ドイツ)の研究チームによる2009年の調査:
18~24歳の男性の約35%が体毛を定期的に手入れすると答えた。そのうち、脇と局部がいずれも約75%。理由は「衛生的」(66・5%)、「美しい体」(49・5%)、「よりよい性行為」(25・5%)。サンプル約2500人。
「欧州では常識」と言うにしては、35%ってずいぶん低い数値ですね。まあ、「手入れ」の定義をはっきりさせずに「あなたは体毛を定期的に手入れしていますか?」という調査やっても意味ないと思うんだが、しかし、仮に「処理」と「手入れ」が同値だとして、「体毛」と「脇毛」が同値だとして(無理があるけど)、パナソニックによる調査とライプチヒ大学による調査が同程度に信用できると仮定すると(あと年齢層のことを無視していいと仮定すると)(あとドイツとオーストリアは似たようなものだと仮定すると)、2009年には35%、2013年には62%と、この数年で処理派が大躍進した、ということなのかも知れない。

●ライプチヒ大学の2009年の調査に携わった精神科医ディアク・ホフマイスター氏によると:
フランスやイタリア、スペインでは丈の短いスカートとタイツがはやった1920年代ごろから女性の脱毛が盛んになった。しかし、ドイツはなぜか取り残された。一説には、ナチス独裁下でヒトラーが体毛に関してナチュラル派だったのが理由、ともいわれる。その後、60 - 70年代のヒッピー・ブームの自然派指向が無駄毛をさらに延命させ、ドイツ女性が本格的に脱毛するようになったのは80年代ごろから」
「剃ったり、生やしたり。その時代で理由は様々だが、無駄毛の盛衰は古代から繰り返されてきた。根底には、自然をコントロールしたいという欲求と、仲間と同じじゃないと安心できないという欲求がある」
つまり「ブリーフとトランクスはどっちがイケてるか」「レギンスとスパッツとトレンカは呼び方としてどれが今っぽいか」などと同じく、体毛に関するトレンドもしょっちゅう入れ替わる、と。

「ヒッピームーブメントによるナチュラル指向」というのはなるほどですね。パティ・スミスの脇毛はそういう流れで解釈すべきものなのかも知れない。まあ、そうだとしてもパティ・スミスの脇毛はナチュラルにブロンドなので、ナチュラルに黒い脇毛の日本人がそのまま真似ると、パティ・スミスとはだいぶ違う印象になる。残念だが、そういうものだ。もしかしてナチュラルではなく、ビールか何かで脱色してるのかも知れないけど。
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Patti Smith Group "Easter" (1978)。今見るとこのショットは、いわゆる「パイスラッシュ」を先取りしてますね。

●玉川透記者による出所不明情報:
すでに紀元前3千~4千年ごろには、地中海周辺などで脱毛の習慣があったといわれる。当時は、石灰やでんぷんをペースト状にした脱毛剤、毛を挟んで抜くひもなどが用いられたという。古代エジプトの女王クレオパトラも脱毛の愛好者だったようだ。中世にも、脱毛した男女の絵画や彫刻が見つかっている。
●玉川透記者による脱毛ショップ調査情報:
ドイツの「Wax in the City」は8年前、ベルリンに女性専門の脱毛店として開業したが、最初の客は男性だった。今やオーストリアやスイス、アイルランドに計18店舗を展開。どの店も男性客が15~20%を占める。社長のクリスティーン・マルグライター(49)いわく、男性の脱毛熱のきっかけは2000年代のメトロセクシュアルブーム。「ドイツの女性が本格的に脱毛するようになったのは80年代ごろからなので、ドイツ女は脇毛フサフサ、というステレオタイプがある(あるいは最近まで存在した)」
「ただ、これは決して『ボーボーは遅れている→未来はテュルン』、というようなリニアな話ではない。欧州で今、無駄毛処理に熱心な男性は20~30代。10代のトレンドはすでに、ワイルドな毛深さに移りつつある」


●玉川透記者による出所不明情報:
1990年代後半からネットで流通した欧米ポルノも影響を与えたとされる。出演する俳優の多くは男女とも局部に毛がない。ヘアヌードなど毛が売り物になる日本とは大違いだ。
ここはかなり浅いんじゃないかなー。この説明じゃ「日本人は陰毛好きなのでAVでも毛が売り物になる」かのようだけど、たぶんそれは原因と結果が逆だ。「日本のAVではみんな生えてるから、日本人は生やしてる」「欧米のAVではみんな剃ってるから、欧米人は剃る」のではないか。初歩の段階でAVで性の作法を学ぶ若者は多いだろうし、AVの影響は要因として非常に大きいんじゃないかと思う。もしかしたら最大の要因かも知れない。

なぜ日本のAVではみんな生えてるのかと言えば、日本では性器をモロに写した画像が禁じられているからだ。欧米では撮っていいから、「毛を排除してもっともっとモロに撮ろう」という指向が生まれる。日本ではモロに撮れないから、「せめて毛を撮ろう」という指向が生まれる。

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あとそういえば、「イタリア女は脇毛ボーボー」というステレオタイプを聞いた記憶がある。空港にて:「お父さん、あれはどこの飛行機?」「ん? あれはアメリカだよ。機体が太っちょだから」「じゃあ、あれは?」「日本かな。眼鏡かけてるから」「じゃあ、あれは?」「あれはアリタリアだよ。見てごらん、主翼の付け根に毛が生えてるだろ」という感じのジョーク。

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あといつも思うんだけど、どうして文系の文章自慢の人って、わざとわかりにくい順番にデータを「散らす」の? ライプチヒ大学で聞いたことはライプチヒ大学で聞いたこと、脱毛ショップ社長が言ったことは脱毛ショップ社長が言ったこと、って具合にまとめてくれた方がわかりやすいと思うんだけど。書くのだってその方が楽でしょう。わざとわかりにくい順番で説明するのは「ユージュアル・サスペクツ」をはじめとして映画や小説では常道だけど、レポートではやめて欲しい。新聞の短期集中連載とか読むと、倒置法というのか倒叙法というのか、わざとわかりにくい順番で書き出す文章ばっかりで、あれ気持ち悪いよ。金子達仁もそうだ。

いや、たまーにならいいんです。異常に倒叙法の確率が高いんだよ、新聞の短期集中連載とか、金子逹仁とか。いつの話か言う前に「暑い日だった」で書き出すみたいな。どこでの話か説明する前に「涼やかな風が吹いていた」で書き出すみたいな。誰の話か書く前に「男はカウンターで、美味そうに鳥串を頬張った」だとか。誰もが競って倒叙法、みたいな。倒叙法で書かないと死んでしまう病気なんです、みたいな。沢木耕太郎の影響だという説を聞いたことがあるけど、どうなんだろうか。僕は柴田錬三郎の影響じゃないかと思ってるんだけど。
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by nobiox | 2013-07-06 23:24 | ├自分用メモ |
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