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完全ネタバレ「火車」全ストーリー
ブックオフで単行本が100円だったので買ってみました(ちなみに文庫本は550円だった)。こんな分厚い小説、たぶん途中でやめるだろうな、と思いつつ買ったのに、意外なことに2日で読了。その後1週間でまた再読。できれば、この記事は読まない方がいいですよ。いちおう警告。




00
1992年1月20日(月)雪の降る夜。刑事(本間俊介、団地住まい、犯人に脚を撃たれて休職中)が、遠い親戚(女房の従兄弟の息子。栗坂和也29歳銀行マン)から人探しを頼まれる。失踪したのは彼の婚約者、関根彰子(せきねしょうこ)28歳。和也の取引先の事務員。つき合って1年4ヶ月。クリスマスに婚約したばかり。ただし和也の親は反対している。彰子は天涯孤独で身寄りなし。宇都宮出身で、高卒で上京して今は方南町のアパートに一人暮らし。

結婚を決めて、ふたりで家具とか買い物してるうちにクレジットカード持ってないことがわかったので、作るように勧めた。彰子もすんなり承知して、申し込み用紙にいろいろ記入。僕はそれを銀行系列のカード会社へ回した。したら数日後、そのカード会社の同期から電話かかって来て、カードは作れんと。つか、この女ヤバいよと。銀行系と信販会社系、両方のブラックリストに載ってるよと。はぁ? 彼女はクレジットカードを持ったことがないんだぞ、そんな人間がどうやったらブラックリストに載るんだよ、と。だけど載ってるんだからしょうがないだろ、と。

さらに調べてもらったら、1987(昭和62)年5月付けで信販会社に郵送されて来たワープロ文書「関根彰子に依頼された弁護士です。関根さんは自己破産手続きをしましたのでもう取り立てやめてね」というのが出て来た。彼女は5年前に自己破産してたのだ。文書を本人に見せたら否定せず、ただ青ざめた。

青ざめて、これには深い事情があるの、少し時間をちょうだい、と。それが5日前。で、そのまま翌日から音信不通。説明もなく、弁解もなく、言い争いもなく。勤務先も無断欠勤。方南町のアパートからは最低限の衣類やら通帳やらだけが消えていた。僕は親にも職場にも内緒で探したい。だから興信所には頼めない。おじさん頼むよ。

01
1月21日(火)以下すべて刑事視点。ただ、刑事とは書くけれども、休職中の刑事には警察手帳見せたり刑事だと名乗って捜査したりする権限はなく、その意味では無力な一般人。その一般人の刑事が、まず関根彰子の勤務先へ。今井事務機。新宿の雑居ビルの2階で、従業員は社長、関根彰子、みっちゃんの全3名。関根彰子の履歴書ゲット。顔写真付き。美人。履歴書の日付は1990(平成2)年4月15日。

履歴書にある前勤務先を調べたら、3社とも架空の会社だった。

自己破産通告を書いた弁護士溝口悟郎を訪ねる。5年前に自己破産した関根彰子は、2年前、死んだ母親の保険金のことで相談に来ていた(1月25日)。当時の勤め先は新橋のスナック「ラハイナ」、住所は川口市。そして。念のため履歴書の写真を見せて確認をとると、今井事務機に勤めていた女は、関根彰子(本物)とは別人であることが判明。以下、女を「偽彰子」と書く。

方南町の偽彰子のアパートを調査。ところで刑事の亡き妻は、換気扇はガソリンで掃除するのがいちばん、という主義の人だった。この日ベランダでガソリンの小瓶を発見し、妻と同じ流儀を持つ女に少しシンパシーを抱く。ガソリン瓶以外の成果は、和也と撮った写真アルバム一冊のみ。アルバムから、住宅展示場のポラロイド写真を発見。

02
1月22日(水)方南町の役場で、偽彰子の住民票と戸籍謄本を入手。戸籍は2年前の4月1日に、宇都宮から方南町に分籍されていた。1990年1月25日、彰子(本物)は弁護士に会い、以後は消息不明。偽彰子は4月1日に戸籍の手続き、4月15日に今井事務機で面接。戸籍を乗っ取ったのだとすると、その間だ。

他人の戸籍を乗っ取るに当たって想定される障害(国民健康保険、生命保険、雇用保険、免許証、パスポートなど)に関して、団地階下の住人伊坂夫妻と問答。

川口市「コーポ川口」へ。弁護士事務所の記録から考えて、ここに住んでいたのが本物の関根彰子なのは間違いない。大家は紺野信子。関根彰子は1990年3月17日(土)に夜逃げしていた。しょうがないから残された家具とか服とかはガレージセールやって売った。アルバムだとか書きかけの家計簿みたいなものは売れないし捨てるのも気持ち悪いので小さな段ボール箱にとってある。その中に手書きの電話番号のメモ。「ここにかけてみたことはありますか?」「ええ。関根さんの友達かも知れないと思って」「どうでした?」「ここにかかったの」と大家は、ぽんと段ボール箱を叩いて見せた。「え?」「ローズラインですよ」。段ボールに「ローズライン」のロゴ。女性向けの下着を扱う通販会社だという。

これ、こんなふうに書くと明らかにこれが後々効いてくる伏線だなとわかっちゃうけど、実際の原作は後々の展開といっさい関係ない膨大なディテールに溢れているので、何が伏線で何が無駄なのか、そうモロにはわからない。
 警視庁の同期「碇貞男」に電話。関根彰子の雇用保険記録と除籍謄本を入手依頼。
 夜9時、銀行マンを家に呼んで経過報告。バカ銀行マン逆上、決裂。

03
1月23日(木)ランチタイムのうどん屋「長瀞」に溝口弁護士を再訪。自己破産者は特別なダメ人間なんかじゃない、むしろ生真面目な小心者が多い、彼らはクレジットカード万能社会の犠牲者なのだ、という弁護士の長い長い熱弁。

夕方、団地に碇刑事がやってきて雇用保険情報(雇用保険が被保険者番号がダブって2通発行されていた)と、除籍謄本(本物の関根彰子の引っ越し歴)を入手。

04
1月24日(金)スナック「ラハイナ」。
関根彰子の母(宇都宮に住んでた)の2年前の事故死についてプチ噂情報。

05
1月25日(土)宇都宮へ。関根彰子の母は1989年11月25日に階段で転落死したのだが、行ってみたら宇都宮はおそろしく平べったい土地であった。ロレアルサロンの宮田かなえに話を聞く。転落したのは山とか公園とか神社とかではなく、3階建ての古いビルの階段であった。所轄署は事故死(若干自殺の疑いもあり)と結論した。葬式には、本多のとこの保っちゃん(たもっちゃん)が来てたわねえ。

保っちゃんを訪ねて本多モータースへ。彼は関根彰子の幼馴染みで、彼女をしいちゃんと呼び、2年前に失踪したしいちゃんを心配していた。

保っちゃんと、その妻郁美と3人で居酒屋。ついに関根彰子の写真をゲット。
マチコ先生(脚のリハビリ担当の理学療法士。関西弁でSキャラ。東京の男を見下している)情報で、ポラロイドの住宅展示場は大阪球場だと判明。

06
大阪へ。今井事務機で偽彰子の履歴書を見たのはもう十日ほど前だろうか、という記述があるので、もう何月何日だかわからない。

大阪球場で聞き込み。ポラロイドの住宅は三友建設傘下のものと判明。
三友総合研修センターへ。
三友グループの中に通販会社「ローズライン」があることを発見。
 ローズラインへ。ローズラインの通販申し込み用紙に、住所氏名職業電話番号生年月日独身か既婚か家族構成持ち家か借家か転職経験、資格の有無、海外旅行経験の有無、貯蓄額、趣味特技等々、膨大なアンケートがついてるのを見る。偽彰子はここで、戸籍を乗っ取る条件(自分と年齢の近い、かつ身寄りの少ない女性)に合致するターゲットを見つけ出したと確信。

ついに偽彰子の知人に出会う。管理課長補佐・片瀬秀樹。
片瀬の協力で関根彰子がたしかにローズラインの顧客だったことが判明。最初のカタログ請求は1988年7月。

片瀬の協力で偽彰子の履歴書ゲット。名前は新城喬子。本籍は福島。採用は1988年4月。ということは高卒から4年経過している。
「その4年間は何をしていたと言ってましたか?」「それが……高校を出てからしばらく勤めて、それから結婚してたいうてました。若過ぎて失敗した、とか」退職は1989年12月31日。ただしローズラインのシステム管理は厳重なもので、事務員に過ぎない新城喬子が顧客情報にアクセスすることは不可能。

重大情報。勤務表によると、関根彰子の母が宇都宮で階段から落ちて死んだ日を含む9日間、新城喬子は会社を休んでいた。名目は病欠。当時は千里中央駅近くのマンションに、市木かおりというルームメイトと住んでいた。

新城喬子の履歴書の住所を辿って戸籍謄本の入手を、碇刑事に依頼。

07
保っちゃんが上京し、調査に合流。手土産に宇都宮での新城喬子の目撃情報。2年前の1月14日、関根彰子の母の四十九日。見たのは保の母親。場所はロレアルサロンの前。
 関根彰子が新城喬子に殺された、ということはすでに刑事も同期も伊坂夫妻も確信している。しかし物証も死体も何にもない。いつどこでどうやって殺しただとか、何もわかってない。死体はどこにあるのか。知り合いの雑誌記者に、未解決のバラバラ死体遺棄事件の情報収集を頼む。範囲は関東近辺と、甲信越。

08
弁護士事務所の紹介で、関根彰子が破産後に寄宿させてもらっていた女性と面会。宮城富美恵。スナック「ゴールド」の同僚。彰子ちゃんは川口にいたころ、郵便物が開けられてる形跡がある、って言って気味悪がってたことがある。あの娘、お母さんの保険金が下りて、破産以降久々にちょっとまとまったお金持ってたから、余計にピリピリしてて。それでお墓を買いたいなんて言うから、言ってやったの。いまどき百万や二百万で墓所が買えるもんですかって。なんだか知らないけど見学会にも言ったそうよ。刑事はコーポ川口で墓地のパンフを見たことを思い出す。コーポ川口に電話して確認。パンフはみどり霊園。

茗荷谷のみどり霊園本社にて、霊園見学ツアーの集合写真を確認。1990年2月18日。ズバリ、そこには関根彰子と新城喬子が並んで映っていたーっ。

09
雑誌記者がまとめてくれた「未解決の、女性の、バラバラ死体事件」情報をチェックすると、これだと思えるのが1件。1990年5月、山梨県韮崎市内の墓地のはずれから若い女性の腕、胴、脚が見つかっていた。時期的にも符合する。頭部は未発見。

新城喬子の戸籍や除籍謄本やなんかからたどって、伊勢へ。彼女はここで結婚と離婚を経験していた。倉田不動産の御曹司、倉田康司。彼の口から語られる、リアル新城喬子のプロフィール。

彼女は福島県郡山に生まれた。一家は住宅ローンが払えず、過酷な取り立てに怯え、このままじゃ喬子が風俗に売られるんじゃないかという恐怖もあり、夜逃げしていた。ときに1983(昭和58)年春、当時17歳の喬子は高校中退。

一家はいったん東京の親戚に身を寄せ、その後離散。父は山谷へ。母娘は名古屋へ。1年後、入院した父を母が見舞い、その油断からまた捕まって酷いことになって、喬子は母が帰って来ないから危険を察知して名古屋のアパートを引き払い、求人広告を見て伊勢市内の旅館で住み込みの仲居となり、そこで倉田と出会う。酷いことから逃げ出して来た母とも再会を果たすが、遊びのつもりだった倉田が本気になる。そして1987年6月、結婚。

ところが結婚すると郡山の戸籍にその事実が載るんですねー。戸籍を監視していた取り立て屋が伊勢まで押しかけてきた。喬子には法律上は返済義務がないため、自己破産もできない。父は行方不明。行方不明の届けを出せば「最後に会ってから7年」で死亡認定されるが、連日の嫌がらせに7年耐えられる見込みはない。一連の騒ぎで倉田不動産は取引銀行をひとつ失った。守りきれず耐えきれず3ヶ月で離婚。

喬子が名古屋で世話になったという先輩「須藤薫」の住所氏名をゲット。

10
刑事が伊勢に行ってる間の保っちゃんの宇都宮聞き込みの成果。関根彰子本人の卒業アルバムが発見されていた。同級生のカズちゃんが持っていた。しいちゃんからカズちゃんのところに小包で送られて来たという。東京での暮らしがうまくいってないから、楽しかった高校時代のアルバムを見ると辛くなる、申し訳ないけどカズちゃん預かっておいてくれませんか、と、ワープロの手紙が入ってた。保はそれを見て、ああ、これはしいちゃんが書いたんじゃない、と確信。なぜならしいちゃんは学校時代に楽しいことなんかひとつもなかった、とよく言ってたから。カズちゃんが寄せ書きのところに「一生親友でいようね。野村一恵」とか書いてたので、それを見て新城喬子が送って寄越したんだ、と。実際にはそもそもしいちゃんとカズちゃんは親友でも何でもなかったし。オレ、ようやくしいちゃんの死を確信しました。

須藤薫の現住所はなかなか掴めない。

新城喬子の元ルームメイト(休暇旅行から帰ってきた)に電話取材。市木かおり。ローズラインのコンピューター室勤務。「片瀬さんは新城さんに惚れていた」「新城さんは免許証を持っていた」「新城さんはコンピュータにはまるっきり無知だった。片瀬さんも似たようなもんで、専門職のうちらから見たら素人同然。どっちもデータ盗み出すなんてことは不可能」「新城さんはきれい好きで几帳面で、節約チャーハンがおいしかった」「新城さんは換気扇の汚れ落としにガソリンを使っていた。私はガソリンいややった」「新城さんは何故か東京の新聞をとっていた」「私が新城さんに顧客データ流す? はは、そんなことするわけあらへん。バレたらすぐクビですやん」

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碇刑事を頼って須藤薫を発見、名古屋で面会。喬子ちゃんと知り合ったのは喬子ちゃんが17歳のとき。お父さんの借金のことも聞いていた。結婚前も連絡くれた。離婚後も何度か来てくれたけど、今は2年近く音信不通。喬子ちゃんは1989年11月19日にひどい火傷を負った。本人は「知り合いとドライブ中の事故」だと言い、それ以上の説明を拒んだ。それから26日まで、名古屋の病院に火傷で入院していた。つまり関根彰子の母の転落死(11月25日)に関して、完璧なアリバイがあった。

この時点で、解決しなくてはならない謎がふたつある。新城喬子はどうやって関根彰子の母を殺したのか。新城喬子はどうやってローズラインの顧客データにアクセスできたのか。

新城喬子はもしかして、あらためて別の誰かの戸籍を乗っ取ろうと企てるのではないか。それをやるにはあらためて通販の会社に就職するところから始めるのか。

保っちゃんは郁美のおかげで思い出す。そうだ、オレは小学校のときしいちゃんと一緒に「飼育部」だった。迷い込んで来た十姉妹をピッピと名付け、世話をしていた。ピッピが死んだとき、しいちゃんはひどく悲しみ、校庭の隅に墓を掘って埋めるときもずっと泣いていた。「私が死んだらピッピと一緒に埋めてね」と真剣に言った。しいちゃんはもしかして、墓地見学ツアーなんかのときに新城喬子にその話をしたのではないか。卒業アルバムの扱いなんかから見て妙に義理堅い新城喬子はそれを覚えていて、宇都宮の小学校の校庭にしいちゃんの頭部を埋めたのではないか。

12
日曜日。保っちゃんは校庭を掘るとか言って、興奮しながら宇都宮へ。
 刑事は思う。そうだ。ローズラインで、コンピュータに打ち込む前の、紙のアンケート用紙。新城喬子はもしかして、それを見たのではないか。

13
翌日大阪へ飛び、片瀬を問い詰めると渋々認めた。入力後のアンケートや注文書は、月に一度処分する。その間は地下倉庫に置いてある。片瀬は新城喬子に頼まれて、それを持ち出して喬子に渡していた。5月から8月まで、4回。名簿屋にでも売るんちゃうかな、と思っていた。新城喬子は肉体関係をもって片瀬を意のままに操っていた。

君の上司には黙っておいてやるからその代わり、と片瀬を脅し、その4ヶ月の間の新規顧客のデータをプリントアウトさせる。160件。果たして関根彰子の名はそこに含まれていた。というか関根彰子の最初のカタログ請求がその年の7月なのはもう確定してるので、あるのは当たり前なんだが。分厚い紙の束を見て思う。彰子のデータは7月分にあるのに、8月まで続けている。条件面で、彰子を必ずしも絶対的な候補とは考えていなかったということだろう。果たして彰子は、新城喬子の第一候補だったのか。候補は何人かいたのではないか。いや、いたに違いない。
 もし、新城喬子があらためて別の誰かの戸籍を乗っ取ろうと企てるとしたら、何もあらためて通販の会社に就職するところから始める必要はない。この中のめぼしい候補のデータを、新城喬子は持ってるんじゃないか。

11月19日、ひどい火傷を負ったというその日、新城喬子は第一候補に何かを仕掛けて失敗し、火傷を負ったのではないか。そして入院中に偶然、別の候補だった彰子の母が階段から転落死したことを知り、ターゲットを彰子に方向転換したのではないか。
 書いてないけど戸籍を乗っ取るターゲット本人は、死体も発見されないくらい隠密裏に殺す必要がある。したがって、仕掛けた何かというのが放火だとしたら、ターゲット本人ではなく、その身寄りを狙った放火だということになる。

東京に戻り、160件の顧客データ中、20代の女性に片っ端から電話して「ここ2年ほどの間に災難に会った身内はいないか」を確認。声が嗄れる頃、ついに発見。木村こずえ22歳(これは1989年に22歳だった、という意味だろうか。だとすると現在25歳、フリーター)。3年前の11月、火事で姉が大怪我、以降は植物人間になり、最近亡くなった。調べてみると火事はたしかに11月19日で、放火の疑いがあった。

あなたには最近、新しい女性の知り合いはできてないか、と聞くと、はい、新城喬子さん。姉の知り合いだそうです。姉が亡くなったことを知らなかったと、すごく済まながってくれて。お墓参りしたいから案内してと頼まれました。それで今度の土曜日の午後、銀座で会う約束になってます。

14
成果を報告がてら保っちゃんを迎えに宇都宮へ。校舎もすでに建て替えられていて、校庭を掘るというのは案外むずかしいのだった。それよりも、保っちゃんは新城喬子の目撃情報をゲットしていた。2年前の春。小学校の校庭で満開の桜を眺め、じっとたたずむ若い女性がいて、気になった事務員が声をかけた。ええ、この写真の人に間違いないです。美人だったからはっきり覚えてますよと。彼女は事務員にこう言った。友達の代わりに来た。友達はもう死んでしまった。その友達は昔、この小学校に通っていた。学校で飼ってた十姉妹が死んだとき、校庭の隅にお墓を作って埋めたらしい、それがどこなのか、もうわからないけれど、と。

14
銀座のおしゃれなイタリアン・レストラン。先に待ってる木村こずえ。配置につく刑事と保っちゃん。向こう側には碇刑事。来た。新城喬子が店内を見渡し、木村こずえ(らしいと判断した)を見つけて微笑みかけ、向き合って座る。新城喬子を確保。ふっつりおしまい。


◆◆

名作だ。以下はどうでもいいアラ探し。「片瀬の協力で関根彰子がたしかにローズラインの顧客だったことが判明(06)」とか「片瀬が刑事に脅されて顧客のデータ160件ぶんをプリントアウトした(13)」とかは、「片瀬さんなんかうちらから見たら素人同然。顧客データにアクセスなんてできるわけあらへん」という市木かおりの証言(10)と矛盾している。

というか、「コンピュータのプロ以外は顧客情報にアクセスできない(10)」という設定はそもそもおかしくないか。それじゃ顧客情報が販売促進の役に立たない。「アクセスはできるけどプリントアウトを持ち出したりフロッピーにデータをコピーして持ち出すとかは、上司の許可がない限り不可能」くらいだと思う。やっぱり「上司の目を盗んで顧客のデータ160件ぶんをプリントアウト」は無理なんじゃないか。

◆◆

「20代の女性に片っ端から電話して声が嗄れた(13)」もおかしい。「身寄りの少ない一人暮らし、あるいは兄弟とふたり暮らしで両親はすでに死亡、とか、そういう条件を満たす20代の女性」に絞れるはず。同時に平行して、「1989年11月19日に関東近辺で起きた放火事件」も調べられるはず。放火なんて1日に5件も6件も起きないだろう。顧客データにある電話番号で木村こずえにつながった、というのもいささか不自然な気がする。放火されて同居の姉が植物人間になって、それでもそのアパートの近所に住んでるのか。まあ、あり得ないってことはないけど。

◆◆

しかしいちばんおかしいと思うのは、喬子が「関根彰子の自己破産通告を見せられて失踪する」という、喬子のその判断だ。だって人ひとり殺してまで手に入れた名前ですよ。殺しなんてそうそう何回もうまくいきませんよ。「もう1回人を殺し、もう1回完全犯罪を成功させる」確率に賭けるよりも、よほど確率の高い、別の選択肢があったのではないか。

「すべての謎を謎のままに失踪」というのが一方のいちばん極端な選択だとして、逆側の最も極端な選択として「婚約者にすべての真実を洗いざらい告白した上で、味方になってくれ、死ぬまでこの秘密を共有してくれと訴える」というのが、まず、ある。

もちろん、いくら愛情があっても、じつは私は関根彰子さんを殺して戸籍を乗っ取ったの、なんて告白に耐え、受け入れられる度量を期待するのはむずかしいだろう。だからこの両極端の間の、グラデーションのどこか、だ。
 あくまで自分は関根彰子だというスタンスは守り、「実は自己破産した過去があるのです、クレジットカードを作れとこのたびあなたに勧められて、もう大丈夫かも、と甘い考えで深く考えずに承諾したけど、やっぱり過去からは逃げられないのね。軽蔑した? ごめんなさい」というのがひとつの出方。
 あるいは、「じつは自分の本名は××××、出身は××××。父親が住宅ローンで破綻して一家離散、取り立て屋に追われる過酷な青春の日々、もうどうしようもなくて死を覚悟したとき、当時勤めてたスナックのママさんが、戸籍はお金で買える、と教えてくれたの。ママさんの紹介で『社長さん』に引き合わされて、20万円出せば後腐れのない戸籍を売ってあげる、って言われて、買ったの。関根彰子さんがどういう人なのか、実在するのかしないのか、私は何も知らないの。でも、たった20万円で人を殺すとは思えないから、死んだとは思ってないの。どこか外国で生きてるのかも。売買される戸籍っていうのは『行方不明になったけど捜索願が出されてない人』の戸籍だって、社長さんは説明してた。たぶん自己破産歴のことは社長さんも知らなかったんだと思うの」とかなんとか。
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by nobiox | 2013-07-21 19:47 | ├読書日記 | Comments(0) |
『吉本隆明 自著を語る』
『吉本隆明 自著を語る』という本が2007年にロッキングオン社から発売されており、
これは対談、あるいはインタビュー本であり、聞き手は渋谷陽一だという話を、今日知った。
高校の同級生から。
マジかー。ぜんぜん知らなかった。

『音楽機械論』という本の著者は、吉本隆明+坂本龍一とクレジットされている。
『悪人正機』の表紙には「吉本隆明」と「糸井重里」が同格でデカデカと表記されている。
坂本龍一とか糸井重里という名前は、旧世代のカリスマ吉本隆明を宣伝するのに、使えるのだ。
そう、出版社は判断した。

もし『吉本隆明 自著を語る』が新潮社とかどっかから出てたなら、吉本隆明+渋谷陽一という線で売ってたはずだ。だが、自分が創業したロッキングオン社から出す渋谷陽一は、そういうことするのが恥ずかしいと思い、避けたんだろう。ああ、惜しい。そういうことを、するべきだった。まだ読んでないけど、読みますよ僕は。僕は麻原彰晃についての吉本隆明のコメントにほとほと呆れて耄碌ジジイを見限った、と思ったことがあるんだけど、それはそれ、これはこれだ。
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by nobiox | 2013-03-23 20:45 | ├読書日記 | Comments(0) |
頼む。お願いします。喧嘩商売を再開してください。
 井上雄彦さんの人気マンガ「バガボンド」が、3月から週刊マンガ誌「モーニング」(講談社)で連載再開の予定であることが8日、明らかになった。10年7月(同誌35号)以来1年半ぶりの再開となる。井上さんが自身のツイッターで「来月あたりバガボンド再開します」とコメントしている。

まじかー。「刃牙」と並んで日本の二大 "いいかげんにさっさと終われよ" 漫画の一角が。しかしオレはもうバガボンドにも刃牙にも興味ないんだよ。さらに言えば、GANTZ にも。

いや、正確にいえば興味はある。ただ、今後の展開には興味がない。どうでもいい。バガボンドなんてさあ、すでに超絶名作なんだから、あとはさっさと終わればよかったじゃないですか。自分で考えて描いてるんだったら、行き詰まるのもわかりますよ。だけどバガボンドは、原作があるんですよ。もう原作通りに運んで、原作通りに終わればいいじゃん。つか、よかった、はずじゃん。井上雄彦が再開しても、どうせ、生と死と宇宙を巡る思念的なモノローグが続くんでしょ。どうでもいいよ。あれはぜんぜん面白くないよ。そんなことよりもさあ。

頼む。お願いします。喧嘩商売を再開してください。僕が生きてるうちにお願いします。

他力本願はよくないな、自分でやったらどうだ、と考えて、僕は、喧嘩商売の続きを自分で描くことを真剣に検討してみました。何度も。だけど、そうして初めてリアルに実感したんだけど、無理なんですよ。すべてが。何度も何度も何度も考えたけど、佐藤十兵衛が石橋強に勝つシナリオが思い浮かばない。どうしても無理だ。頼むよ木多康昭。あんたに描いて欲しいんだ。あんたが描けないなら、僕にメールをください。事情によっては僕がなんとかします。僕にできることなら僕がなんとかしますよ。だから、頼む。2月に再開すると言ってたじゃないか。今年じゃなくて去年の2月だ。オレはバガボンドの続きも刃牙の続きもGANTZの続きも、ほとんど興味ない。ただ、喧嘩商売の続きが読みたいんだよ。ネックが金なら、オレが金をなんとかするよ。ネックが人員なら、オレが人員をなんとかするよ。だからさあ、読ませてくれよ。頼むよ。
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by nobiox | 2012-02-09 01:22 | ├読書日記 | Comments(3) |
喧嘩商売連載再開無期限延期中
こんな発表が出てたのか。知らなかった。このまま終わりになったらどうしよう。

講談社公式サイトより。
『喧嘩商売』についてのお知らせ
2011年01月31日
『喧嘩商売』は昨年の第40号にて2月に連載再開予定とお伝えしましたが、
執筆準備の遅れのため、再開予定を延期させていただきます。
再開の時期が決まり次第、誌面とホームページにてお伝えします。
お待たせして申し訳ありません。

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by nobiox | 2011-02-21 16:23 | ├読書日記 | Comments(0) |
会田誠『カレー事件』後篇
(承前) 実家に着いて2日目、姉一家4人がタ食を一緒に食べにやってきた。

姉は母と険悪な関係にあり、近所に住んでいるにもかかわらず実家に滅多に顔を出さない。それでも、会田の息子・寅次郎(6歳)が、いとことの再会を楽しみにしていたこともあり、久しぶりの一族再会が実現したのだ。会田は半日かけてカレーを作った。自信作だった。

カレーを盛りつけていると、隣の和室からけたたましいベルの音がした。寅次郎が父の枕元の目覚まし時計を鴫らしたのだ。父は寝たきりというわけではないが、介護用べッドでウトウトしていた。機械キチガイの寅次郎はアナログ時計が珍しいのか、昨日も何度も無意味に鴨らし、母にたしなめられていた。隣を覗くと、母がベッドの脇で寅次郎の髪を掴み、引きずり回している。

「何度言ったら分かるんだ! 可哀想なおじいちゃまを唐めるな!」
 それに対して寅次郎は、
「おばあちゃんなんか大っ嫌いだ! みんな大っ嫌いだ!」
 と、顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら叫び、応戦していた。おそらく寅次郎は夕飯の支度ができつつあり、おじいちゃんを起こすつもりもあったので、叱られることが納得いかないのだろう。
 姉が「もうそれぐらいでいいでしょ」と母を制止しようとするが、
「ぜんぜん反省していないじゃないか! おばあちゃんは厳しいんだぞ!」
 と、まったく手を緩めようとはしない。寅次郎はますます油を注がれた火のようになり、
「みんな死んでしまえ!」
「こんな家なんて燃えてしまえ!」
「パパとママなんか離婚してしまえ!」
 などと、知っている限りの激烈な言葉を喚き続け、僕ら夫婦には日常的な、無限の逆ギレ状態に突入していった。

 騒然として憂鬱な時間が、このままエンドレスかと思われるほど続いた。しかし実際はほんの数分間の出来事だったのかもしれない。

 妻が「別室できちんと言い聞かせますので……」と母に言い、泣き暴れる寅次郎を強引に抱えて二階に上がり、ひとまず鼓膜破りの音源は遠ざかった。
 すると今度は母と姉の、子供の教育を巡るねちっこい口論が始まった。
「お母さんは子供の教育ってものが何も分かってないのね。あんな言い方で子供がちゃんと育つと思っているの?」
「みんな適当に、その楊しのぎに誤魔化しているだけじゃないか。本当の教育はそんな甘っちょろいもんじゃないんだ」
「バッカみたい。あなたが昔教師をやってたなんて、まったく信じられない!」

 ところで、母が教育的に叱責する時の言い回しや発音の調子は、(中略)どこか演技じみて、板についていない。(中略)だから内容の正しさや妥協しない徹底性や声量の大きさにもかかわらず、その言葉は僕の心にさほど響かなかったし、寅次郎の心にも響かなかっただろう。(中略)
 そんな母の「不自然なパフォーマンス」の、今回は特にタイミングが唐突だった気がする。それは、母がその観衆として第一に当て込んでいた姉がそこにいたからではないか、と僕は睨んでいる。(中略)分かりやすい母の反動形成である姉は、まったくすれ違いの教育論を母と口汚く交わし、怒りのボルテージをマックスまで上げた末、
「アタシこの人嫌いだから」
 という捨て台詞を僕に向かって言うと、そのまま足早に玄関から出て行った。そしてそのまま本当に帰ってこなかった。

 残された実直な郵便局員の義兄は、諦めたような悲しいような複雑な表情はしていたが、自分の妻と義母のこういう関係にはすでに慣れっこらしく、特に勤揺する様子もなく食卓に座り続けていた。中学1年生になった上の姪は、手で顔を覆い声を押し殺し、ずっと泣き続けていた。

 母はいつまでもブツブツとひとりごちながら、「自分こそ正義と信念の人」という演技を、最初の方針通り自動的にやり続けていた。もはや壊れたロボットだった。父親のリアクションは記億にないが、(中略)
 そして僕はといえば、またしても痛感することになった。——この母に育てられた、この徴妙に最悪な家庭で育った僕という人間は、おそらく一種の失敗作なんだろうな、と。無差別殺人鬼になるような露骨な失敗作ではないけれど、精神のベーシックな部分が、僅かかもしれないが確実に腐敗していることは、もはや僕には自明のことだった。

 そんな自分の「プチ病気」を、誇張したり変形したり、手を替え品を替え晒すことで、僕はアーチストという稼業を成り立たせている。そのことを再確認するための帰省だったのかな——と、ライスに盛られた本格カレーが冷えて固まり、艶を失っていくのを眺めながら、僕はぼんやり考えていた……。

おしまい。映画化するなら、姉の旦那には手塚とおるを希望する。
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by nobiox | 2010-07-27 14:28 | ├読書日記 | Comments(0) |
会田誠『カレー事件』前篇
会田誠著『カリコリせんとや生まれけむ』は、「カレー事件」というエッセーで始まる。

 今、新潟に帰省している。
 すでにかなり高齢といえる父が、半年ほど前にアルツハイマーと糖尿病の症状が一気に出てきてしまい、急激に衰え始めた。父がそうなった直後に、かなりパニクった母から連絡があり、一人で1泊だけ、慌ただしく帰省したことはあった。しかしそれ以降は大きな展覧会の準備に追われ、なかなか時間が取れなかった。ようやくその展覧会も終わり、今回は妻子を連れて数泊の帰省となった。
文章うまいですね。初期の会田誠の傑作に「あぜ道」という絵があるが、あれは、新潟の風景だったんだねえ。この「父」は元・大学教授。「母」は埋系の大卒で化粧っ気のない短髪でウーマンリブのシンパで元・中学教師。

両親共々左寄りのインテリリベラルと聞くと、それだけで「うらやましい」と本気で思ってしまうところが僕にはある。しかし会田誠には、そういった左翼幻想がほんの一片もない。父については
「愚かな目本国も人類もこのままでは滅びるだけだ」といった趣旨の、発言(ほとんど独り言)は相変わらずだったが、ニュアンスは「怒り」から「諦め」にトーンダウンしつつあった。冷酷な息子である僕は、三流インテリだった頃の定番めいた社会的愚痴と、自らの肉体の滅亡という認識が、脳の中で混濁を始めたんじゃないかと疑っているのだが。
と冷たく書き、母については
母が教育的に叱責する時の言い回しや発音の調子は、どこかおかしい。これは僕が子供の時からそうだった。語尾が不自然な男言葉になりがちで、声の調子も野太くなるのだが、どこか演技じみて、板についていない。例えば『奇跡の人』のサリバン先生のような「理想的で厳格な教育者」を、演じようとして演じきれない大根役者のような感じがするのだ。昔は母としての、現在は祖母としての、慈愛を奥に含んだ自然な威厳というものが、そこにはまるでない。(中略)こういうのが「母の崩壊」「母性の喪失」というやつなのだろうか。戦後民主主義がスタートした時代に女学生だった母は、世代的にど真ん中だった気がする。
と、さらに冷たい。会田誠の姉は、実家から歩いて行ける距離に往んでいるが、
姉は思春期の頃から母に反発心があり、特に自分も二児の母になってからは、さらにはっきりと「アンチ母」の意思表示をするようになったらしい(らしい、と書くのは、僕と姉の関係も良好なわけではなく、お互いにお互いのことに無関心な冷めた関係で、姉から直接聞いたわけでぱないからだ)。
という感じ。

全体としては「インテリ左派の両親に育てられた僕には、人間的に欠損がある。姉も同じ。僕みたいな欠陥人間に育てられている僕の息子寅次郎も、同じ」という、救いのない話だ。誰か映画化してくれないだろうか。監督は本谷有希子を希望する。(後篇に続く)
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by nobiox | 2010-07-24 22:40 | ├読書日記 | Comments(0) |
日本の殺人事件の半分以上が親子兄弟夫婦の殺し。
「家族的経営」と「心中」したがる私たち(小田嶋隆)

要旨:亀井静香郵政・金融担当相は「殺人事件の半分以上が親子兄弟夫婦の殺し。こんな国は日本だけだ。人間を人間扱いしないで利益を上げるための道具としてしか扱わなくなったからで、大企業が責任を感じなきゃ駄目だ」と講演(10月5日)で述べた。

だがしかし。日本は殺人事件の発生率そのものが低い。ウィキペディアが引用しているICPOの2002年の統計では「人口10万人あたりの発生率は1.10件で先進国の中ではアイルランドと並んで最も低い」。ちなみにロシア22.21件、イギリスが18.51件、スイス18.45件、アメリカ5.61件、イタリア3.75件、フランス3.64件、オーストラリア3.62件、ドイツで3.08件、スウェーデン1.87件。

また、殺人事件の発生件数は、戦後ほぼ一貫して減っている。たとえば昭和三十年代と比べると、人口十万人あたりの殺人発生件数はずっと少ない。一方、殺人の総件数のうちにしめる家族内殺人の比率はほぼ横ばいで、つまり、家族内殺人も件数としては減っている。

それと、亀井静香が企業の金儲け主義を批判しつつ金儲け主義に対置したいのはたぶん「古き良き家族主義的経営」だろうが、家族主義的経営なんてものは亀井静香が考えているほど素敵なものではなく、オレ(小田嶋)に言わせればむしろ気味の悪いものである。

日本において家族内殺人の比率が高いこと自体は事実なんだが、もしかするとそれは、心中とか無理心中とかを美化したり過剰に情状を酌量する日本独特の異常な思考パターンと関係あるんじゃないか。

この記事には家族的経営の話や心中の話や太宰治の話が書いてあるけど、この記事中のいちばん優れた指摘は、殺人事件の半分以上が家族殺しだと言うが日本は殺人事件自体が少ないんだよという、つまり「数字の嘘」「統計の嘘」の部分じゃなかろうか。小田嶋隆はいつも、いろんなことを書き過ぎる。それにしても殺人事件がロシアで多いというのはなんとなく(ロシア人には申し訳ないけど)納得してしまうが、イギリス、スイスの高さは意外ですね。

ところで心中というのはどうも、別に日本独特の現象ではないようだ。小田嶋隆のこの記事についたコメントの中に

「一家無理心中」を表す英単語に"familicide"があります。これについては町山智浩さんが「ニューズウィーク」(2009.6.3付け)で「不況下で増える悲しい「ファミリサイド」」というコラムを書いていらっしゃいます。わたしもこのコラムを読むまで一家無理心中は日本人特有の心性だとずっと思っていたので、「目からウロコ」でした。

というのがあった。WikipediaのFamilicideの項目には、無理心中はアメリカにおいて「most common form of mass killings」だと書いてある。

またWikipediaによるとオーストリア皇太子ルドルフ(Kronprinz Rudolf, 1858年8月21日 - 1889年1月30日)の死の真相は今もなお謎で、「はじめは『心臓発作』として報道されたが、じきに『情死』『心中』としてヨーロッパ中に伝わり、様々な憶測を呼んだ」だそうだ。真相がなんであれ、「情死」「心中」としてヨーロッパ中に伝わったのだとしたら、ヨーロッパ人にもそういう概念はある、ということだろう。「ロミオとジュリエット」だって、あれは無理心中の話ではないし、心中の話でもないけれど、愛する人が死んでしまったので自分も自殺するという話なんだから、心中のメンタリティに割と近いのではなかろうか。また、LiveDoorNews でこういう記事を見つけた。

2009年7月7日、日本華字紙・中文導報によると、この1週間で中国人刺殺事件、心中事件などが続いて起こっている。
6日午前5時10分ごろ、広島県廿日市市阿品台西の県営廿日市住宅に住む中国人の崔宝亮(ツイ・バオリャン)容疑者(38)が、妻の劉麗美(リウ・リーメイ)さん(38)、定時制の県立工業高校1年の長男(15)の2人と無理心中を図ったとみられる事件が起こった。妻の劉さんは数か所を刺されて死亡、長男も数か所を刺されて意識不明の重体。現行犯逮捕された崔容疑者も、約2時間後に死亡した。3人はともに中国籍で、2000年8月から同住宅で生活していたという。
 また、6月30日深夜0時ごろ、埼玉県戸田市喜沢1のアパート「松江ハイツ」で、中国人の派遣会社員・陳春姫(チェン・チュンジー)さん(28)が、胸や腕など数か所を刃物で刺され死亡する事件が起こった。同8時15分ごろには現場近くの川で陳さんの夫・全太煥(チュエン・タイホアン)さん(28)の死体が発見された。29日午後9時ごろ、2人の自宅で激しい口論の声を聞いたとの証言もあるという。2人はともに中国吉林省の出身で、朝鮮族とみられる。陳さんは02年4月に留学生として来日、全さんは07年に陳さんに身を寄せる形で来日した。
 01年7月25日には、名古屋市西区又穂町2の又穂団地で、中国人夫婦の飛び降り事件が起き、夫婦ともに死亡。03年3月2日にも、大阪市此花区伝法1の私営伝法住宅で中国人女性の死亡事件があった。(翻訳・編集/津野尾)

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by nobiox | 2009-10-19 17:26 | ├読書日記 | Comments(0) |
ブレーキ痕
「酒と蘊蓄の日々」というブログがおもしろくて、さいきん毎日読んでいる。自分用の「読書日記」をつけることにした。今日はブレーキ痕について。
ブレーキ痕

要旨:自動者事故を伝えるニュースなんかでよく「現場にブレーキ痕はなく」という台詞を見かけるが、昨今のABS付きであれば路面にブレーキ痕が残るなんてことはまずない。書くなら「当該車両はABS非搭載だったにもかかわらず現場にブレーキ痕はなく」と書くのでなければ無意味である。

「酒と蘊蓄の日々」を書いてる石黒さんという方は「元自動車業界人で現在は機械メーカーに勤める日本人」だそうで、だからこれは勘やイメージで言ってるのじゃなく、実態を知ってる人の発言である。ABS付であれば路面にブレーキ痕が残るなんてことはまずない。なるほどなあ。私は自動車を持ってないので、まあ知らなくても当然(とは言え頭文字Dおよび湾岸ミッドナイトの愛読者としては恥ずかしい)だが、ドライバーにとってはよく知られた事実なんだろうか。たぶんそうでもないんだろうな。普通の人は高速走行からブレーキ一気にベタ踏みなんて機会はあんまりないだろう。だからこそ新聞記者も「現場にブレーキ痕はなかった」なんて書いたり、デスクもその記事に疑問を持たずOK出したりするんだろう。警察はどうなんだろうか。警察は定例会見での質疑応答で「それで、現場にブレーキ痕はあったのですか」とか新聞記者に訊かれた場合、その質問はABS搭載の有無とセットでないと意味ないよ、とか、うん、なかったけど、報告によるとABS付きだったらしいから、ブレーキ踏んでないのかどうかはわからんね、だとか答えるのだろうか。

長年刷り込まれてきたイメージを打ち消すのはなかなか難しいが、なんとか打ち消すように努力をしよう。「清原は自分のことをワイと言う」「相撲取りは自分のことをワシと言う」「刑事は容疑者にカツ丼をおごる」「日本の裁判官は木槌で机を叩く」「全身に金粉を塗られると窒息する」「回転の少ない球は重い」「名古屋の人は毎日海老フライばかり食べている」等々、事実でないのにイメージで世間に刷り込まれてきた迷信はたくさんある。急ブレーキを踏めばアスファルトに黒々とタイヤ痕が残る、というのは長年にわたって事実だったわけだが、今では、事実とは限らない、と。

「全身に金粉を塗られると窒息する」という与太話の起源は「007 ゴールドフィンガー(小説は1959年刊、映画は1964年)」だが、今の十代や二十代はそもそもそんな話を聞いたことがないという人の方が多い。もしかすると遠からず死語となるかも知れない。「急ブレーキを踏めばアスファルトに黒々とタイヤ痕が残る」という話はどうなるだろうか。同じように、やがて死に絶えるだろうか。たぶん、そうはならない。いくらABSが普及しようが、子供たちはやっぱり上履きで学校の廊下を滑ったり、靴下で病院や体育館の床を滑ったり、運動靴で地面を滑ったり、自転車のタイヤを滑らせたりして、「滑る」「ズルズル」の実感を蓄積するだろう。「タイヤ痕」には体感上の裏付けがあるのである。

フィクションにおいては効果音の問題もある。例えば映画「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」は大型トラックによる死亡事故のシーンからいきなり始まるのだが、ギャルルルギュウワキイイイイイイイイイイイイイ、という、悲痛な、遠吠えのような、何か取り返しのつかないことが起こりましたよと告げるような、胸を引き裂くような、鼓膜をつんざくような、黒板を掻きむしるような、あのおなじみのブレーキ音が響き渡り、路面には黒々とタイヤ痕が描かれる(途中から血で赤くなる)。ABS付きだとほとんど滑らないということは、ABS付きだとあの音がほとんどしないということだ。悲劇の象徴として、あの効果音はなかなか外せないだろう。そしてあの音があれば必ずあのタイヤ痕は残る。映画の中の急ブレーキシーンでは、ABSはなかなか主流にならないのではなかろうか。長年刷り込まれてきたイメージを打ち消すのはなかなか難しい上に、今後もそうした刷り込みは続くわけだ。それでも、なんとか打ち消すように(というか、ABSもあるよと思い起こすように)努力をした方がいいと思う。

◆ ◆

ついでにもうひとつ、Wikipediaで今日読んだ話。多くの車種では、ABS作動中はブレーキペダルが振動する。それに驚いてブレーキペダルから足を離す人が多い。離すと危ない。乾燥した舗装路面でも、マンホールの蓋や砂・砂利なんかの上でブレーキをかけるとABSが作動してブレーキペダルが振動することがある。そのため、新車を買ったばかりなのにブレーキが故障したなどとトンチンカンな苦情が持ち込まれることも少なくなく、自動車販売店では車両販売時に重要な注意点として顧客に説明している。
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by nobiox | 2009-10-16 20:04 | ├読書日記 | Comments(0) |
ネタバレ『イニシエーション・ラブ 』
『このミステリーがすごい!』2005年版の12位にランクインした作品だそうだ。しかし読んでみるとどこがミステリーなんだかわからない。Amazon のレビューを見ると誰も彼もが「とにかく最後の2行を最後まで読むな」と言ってるので、我慢して最後まで読むと、あー、なんだそういうことね、というつまらないオチがある。ぜんぜんおもしろくない。しかし、この本のおもしろさにじわじわ気付くのはその後だ。と、いうことは。

ということはつまり、オチを知ってから読んでもじゅうぶんおもしろいし、それどころか、むしろ知らずに読んだ1回目は時間の無駄だったとすら言える。だってぜんぜんおもしろくなかったんだから。

しかし私はそう思うわけだが、文庫のオビに「評判通りの仰天作(読売新聞書評より)」とあるのを見ても、騙される快感を味わった人も現に多いらしいので、この本を読んでみるつもりの人は、この先は読まない方がいいですよ。



この小説については、ゴンザさんの解説がおもしろい。石丸美弥子の元彼「天童」は、美弥子の前には美弥子の姉とつき合っていたのではないか、など、目からウロコだ。私も真似て、成岡繭子視点で並べ直してみました。

マユの日記(ページ数は文春文庫のもの)


▼1987/06/10とかそのへん:たっくんの工場研修が終わる。ひさびさだったが、生理。(p193)

▼06/20(土):たっくんが東京に転勤だと聞かされる。早くても二年。三年の可能性も。動揺。ラブホ。いつになく燃える。(p139)

▼06/30(火):たっくん東京の寮に引越し。(p142)

▼07/02(木):ハタチの誕生日。たっくんが東京からほんとに来てくれた。『男女7人』のブーツ型ジョッキ。それに、それに、ルビーの指輪。こんな嬉しい誕生日は、もう一生ないかも知れない。(p145)

▼07/07(火):たっくんが寮のそばに駐車場を借りたらしい。月三万。土曜には車取りに来るって。(p159)

▼07/10(金):ユッコ、ナッチャン、カズミに誘われて合コン。夕樹くんっていうコがちょっと気になる。

▼07/11(土):たっくん。お泊まり。たっくんは疲れているようで、ロールキャベツも半分残した。翌日車で東京へ。(p162)

▼07/18(土):たっくん車で帰郷。雨。2人で伊勢丹。水着試着。本屋。お泊まり。(p180)

▼07/21(火):今年の水着を買ったと、たっくんに Tel。週末に海に行こうと約束。(p183)

▼07/24(金):たっくん、東京で入院(突発性難聴)。海はキャンセル。

▼07/28(火):たっくんから退院のTel。生理が遅れている。

▼08/02(日):夕樹くんたちと海へ。今年の水着を最初に見せるのはたっくんと決めているので、去年の水着(白に花柄のワンピ)を着ていく。煙草を口実に夕樹くんに Tel 番教えて、ちょっといい感じ。

▼08/08(土):3週間ぶりに来ると言うたっくんをずっと待つが、来たのは夜だった。帰省ラッシュらしい。夕樹くんたちと行った水着の痕に、たっくんのキス。お泊まり。まだ生理が来ない。

▼08/09(日):たっくんの寝坊&渋滞で海をあきらめる。やっぱりたっくんは疲れているようだ。6月を最後に生理がないことを打ち明ける。結婚しようと言ってくれたのは一瞬うれしかったけど、やっぱりそんなの無理だよ。どうしよう。夜、初めて夕樹くんから Tel。たっくんが帰ったあとでよかった。デートに誘う。

▼08/14(金):夕樹くんと初デート。マックとかでいいですよ、って言ったら「あ、じゃあマックにしましょう」って信じらんねー。免許も持ってないと言う。眼鏡も服もなんとかならんのか。だけどこういうウブなひとも新鮮かも。オシャレの話をしてる時、あやうく夕樹くんのことをたっくんと呼びそうになり、焦る。こっちのリードでビール飲みに移動。金ギョーザ。夕樹くんは本好きらしい。こっちのリードで本の交換提案。初めてマユちゃんと呼んでくれた。まだ生理が来てないので、大丈夫だは思うがいちおうこの日、煙草は自粛。

▼08/21(金):夕樹くんと2度目のデート。なんとコンタクト。おまけに自動車学校に通い始めたと。強引な理屈で「たっくん」と呼ぶことに決める。泡坂妻夫という人のミステリーを4册貸してくれた。文庫本だと思っていたら大きい本で、重かった。

▼08/22(土):たっくん(辰也)3週間ぶりに帰郷。生理は来ない。明日たっくんの車で病院へ行くことに決める。空気が重い。(p.213)

▼08/23(日):炎暑。産婦人科へ。妊娠3ヶ月と判明。部屋に帰り、たっくんと言い争い。夕樹くんが貸してくれた本にまで下らない文句言われ、気まずいまま、たっくん東京へ。後で Tel 来て、結局「堕ろそう」と。1人で泣く。

▼08/26(水):何も知らないたっくん(夕樹くん)に Tel して、金曜のデートをキャンセル。

▼08/29(土):堕胎手術。一泊入院。

▼09/04(金):何も知らないたっくん(夕樹くん)と3度目のデート。「便秘で入院してた」と言ってごまかす。心置きなくタバコを吸う。辰也も夕樹くんもどっちも「たっくん」なのは多少変な感じではあるが、すっごいラク。

▼09/05(土):今週、たっくん(辰也)は来なかった。仕事が忙しいと言っている。

▼09/11(金):たっくん(夕樹くん)と4度目のデート。相変わらず何もして来ない。

▼09/12(土):今週もたっくん(辰也)は来なかった。もうダメなのかも。ダメなんだろうか。ヒドイよ。会いたいよたっくん。最近ふとんの中で「会いたいよたっくん」と思うとき、どっちのたっくんのことを考えているのか、自分でわからなくなっている時がある。とにかく会いたいよたっくん。

▼09/15(火):敬老の日。たっくん(夕樹くん)たちとテニス。会いたかったのに、たっくんとのことはみんなには内緒で、ちょっといろいろ気まずくて微妙な雰囲気に。部屋に帰ってからたっくんにフォローの Tel。うまく誘導してようやく告白ゲット。勢いで部屋に呼ぶ。部屋に来てもまだグズグズしているので、こっちから迫ってキス。Tel 番教えるのもデートするのもマック入るのもビール行くのも、告白も部屋に来るのもキスも、なんでもこっちが決めないと進展しないのが情けない。まだグズってるので、こっちから後ろに倒れてひきずり込み、ようやく初**。

次からはぜったいゴム用意しとけ、と念押し。だって傷付くのはいつだって女のコなんだよ。外に出せばゼッタイ大丈夫ってわけじゃないんだよ。「経験者は語る」だよ。もちろん語らなかったけど。ちょっと痛そうなフリしたら、そのまんま信じたようだ。

▼09/18(金):たっくん(夕樹くん)とデート。しかし、明日あっちのたっくんが来るのだから、今夜こっちのたっくんを部屋に上げるのはリスクが大き過ぎる。こうなった以上、これから毎週そういうニアミスの危機が・・・と悩んだ挙句、次からは金曜はやめて木曜に会いましょう、ということに。金曜は男女7人観たいから、と言っておく。じゃあ毎週一緒に観ようよ、とか言い出さなくて助かった。

▼09/19(土):たっくん(辰也)。あれから3週間ぶり。もう来てくれないのかと思っていた。わーん(涙)。三保の海岸までドライブ。ラブホ。燃えた。
たっくんたっくんたっくんヽ(;≧∀≦)ノ
毎週はキツイから、静岡に来るのは2週間に1度にする、ということに。(p.232)

▼10/3(土):たっくん(辰也)。お泊まり。

▼10/9(金):今日から『男女7人秋物語』。遠恋中の大竹しのぶが、いけないと思いつつも別の人を好きになる。すごいわかるー。遠距離って、やっぱり、つらいよね。しかも隔週と決めたのだから、あしたは来ない。

夕樹くんと会うのを木曜に変更したのも失敗だったかも知れない。隔週になるとわかっていたら、あっちのたっくんの来ない週にこっちのたっくんと会えばよかったのではないか。「一号」→「二号」→「一号」→「二号」ってローテで。そんな都合よくいかないか。でもたっくん(辰也)来ないんだから、あしたたっくん(夕樹くん)に Tel してみようかな。たっくん(夕樹くん)いるかな。たっくんに会いたいな。なに着てこうかな。

▼10/10(土):体育の日。昼ごろ、たっくんに Tel。洗濯してたらしい。初めて部屋に行く。スゴイ本の量。ファミコンで遊ぶ。二人きりの部屋でファミコン、ってとこまでこっちが段取ってあげてるんだから肩くっつけて来たりとかすればいいのに相変わらず。しょうがないから目が痛いとかなんとか適当言ってちょっと無理やりにキスに持ってく。でも男ってちょっとウブい方がいいかもしれないし。辰也なんて東京で何してるんだかわかりゃしないんだから。知らないんだから。辰也のせいなんだから。だけど今日は生意気にバックとかさせられて、マジ殺意湧いた。こっちから持ってかないとムード作りもキスもできないくせに、ヘンなことからヤリたがるなっての。竿竹屋の声がまじウケる。これから隔週でこっちのたっくんちに行こうかな。だって隔週でしかあっちのたっくん来ないんだもの。

▼10/17(土):たっくん(辰也)。

▼10/24(土):たっくん(夕樹くん)の部屋。ほんとに毎週代わる代わるになってしまった。

▼10/31(土):たっくん(辰也)。今夜ショックなことがあった。たっくんが私のことを、知らない女の名前で呼んだ。信じらんない。それでも「中学の時の同級生だよ。ミヤコ・ヨシノリって。なんで出て来たのかな、っかしーな」とか誤魔化してくれればいいのに、もう固まっちゃってんの。浮気はゼッタイ許せないけど、それ以上にツライのは、マユに対する気持ちの糸が切れちゃってるってことだよ。だって、何がなんでもマユのこと守りたかったら、「ミヤコ昆布って案外うまいよな」とか、どんなに無理目でもなんとか切り抜けようってするよね。マユなんか「ズボンのタックが・・・」とかなんとかわけわかんないこと言っちゃって、でもちゃんと切り抜けたじゃん。それか、東京の女のことも「マユ」って呼ぶことに決めとくとか。ありえないか。でもほんとに大切に思う気持ちさえあれば、人生ってなんとかなるんだよね。なのにたっくん逆ギレ。

マユのこと裏切ったのたっくんじゃん。なのにたっくんがキレてマユの鏡台蹴とばすとか、まじ意味わかんないですけど。マユはたっくんの子供まで堕ろしたんだよ。たっくんを愛して、たっくんがパチンコしてる間に検査して、たっくんのために一方的に傷付いて、捨て台詞は「じゃーな」だって。靴はいてドア「バタンッ」だって。沢田研二かっつーの。あれは女の方が出てくんだっけか。

あなたは都会の色に染まって、マユを忘れて変わってゆくのね。よかったじゃない。ミヤコさんって、そんなたっくんにお似合いの名前だわ。マユが静岡で歯型とってる間に、たっくんは代官山やパリやリオ・デ・ジャネイロで毎日愉快に過ごすのね。もう帰って来ないのね。静岡じゃパチンコ屋しかないもんね。都会にはミヤコさんがいるもんね。ミヤコだなんて、キャバ嬢みたいな名前。お似合いだよたっくん。もうお終いだね。ルビーの指輪は送り返すよ。「オレに返すつもりなら捨ててくれ」とか言うかしら。さよならたっくん。あれは目映い陽の中で誓った、愛の幻だったのね。よかった、あしたが日曜で。今夜はきっと目が腫れちゃうよマユ。可哀想過ぎるよマユ。ヒド過ぎるよたっくん。たっくんたっくんたっくん。

▼10/07(土):たっくん(夕樹くん)の部屋。ひときわ燃える。

▼11/14(土):たっくん(夕樹くん)が免許とった。初ドライブ。いきなりラブホ。おー、なかなかやるようになったじゃん男子。ラブホの駐車場にバックで車入れるたっくんの横顔に、ちょっとトキメキました。たっくんってスゴイ。スゴイスゴイスゴイ。クリスマスの話。今ごろホテル取れっこないって。
と、思ったけど、だけどそう言えばイブの夜たっくんが、たっくんって辰也だけど、ターミナルホテルとってくれてたんだっけ。たっくん、あれキャンセルしたかな。でもまさかね。

だけどたっくん、って夕樹くんが、ターミナルホテルの予約取れたって。電話。笑っちゃう。考えてみればもともと私のために押さえてあったんだから当然よね。それに、押さえてくれてたのもたっくんなんだし、たっくんは天下の回りものって、こういうことを言うのね。運命なんだきっと。やっぱたっくんってスゴイ。やっぱりきっと運命の人なんだ。

▼11/28(土):たっくん。

▼12/05(土):夜中、無言電話があった。「たっくん?」と聞いたら切れた。たっくんに確かめたけど、違うらしい。もしかして辰也だったのか。やっぱりまだ私のこと忘れられないのか。でも自分だってことを気付かれるのが怖くて、慌てて切ったのか。かわいそうだけど、もう遅いよたっくん。ごめんね。たっくんが悪いんだよ。

▼12/18(金):『男女7人(秋)』最終回。さんまとしのぶのラストの言い合いとか、最高。すごいいいなあ、って思う。たっくんと観たかったな。

▼12/24(木):ターミナルホテルでたっくんとイブ。シャンパン。たっくんたっくんたっくん。好き好き好き。世界中でいちばん好き。


ゴンザさんによると、「繭子の妊娠の相手は辰也でも夕樹でもない第三の男」説とか、「北原が第3のたっくん」説とか、「妊娠は辰也と別れるために打った偽装。いくらなんでも堕胎直後の浮気は不自然」説なんかもあるらしい。なるほど、どれもないとは言えない。

この本の感想として「女は怖い」という人が多いけど、それはちょっとどうかと思う。「悪い男」と「悪い女」のどっちが多いかと言ったら、圧倒的に前者ですよ。だから「男は怖いが、だからと言ってすべての女が怖くないわけではなく、怖い女もいる」と言うのが正しい。

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by nobiox | 2007-12-01 18:43 | ├読書日記 | Comments(0) |
『野球術』
『野球術』。ジョージ・F・ウィル著/芝山幹郎訳/文春文庫2001年刊行/上\667/下\667。いやー、おもしろいですよコレ。びっしり文字が並んでるので全部読もうと思うとプレッシャーだが、順不同の拾い読みでも充分おもしろい。

▼「攻めのピッチング」とは打者を力でねじ伏せることではない。手を替え品を替えて打者を疑心暗鬼に追い込み、翻弄することだ。同様に、当てたい一心でなんでもかんでも振り回しボール球に手を出すのは「攻めのバッティング」と呼ばない。それこそが典型的な弱気のバッティングだ。「攻めのバッティング」とは、好きな球が来るまでじっと待つことを言う。攻めのピッチングができれば、バッターは守りに追い込まれる。by レイ・ミラー(上巻p.335、大意)。読んでるか聡文。

▼その日、怖ろしい強打者を打席に迎えた若きレフティ・ゴメスは、サインに何度も何度も何度も首を振った。あまりのことにキャッチャーがマウンドに歩み寄り問い質すと、ゴメスはこう答えた。なあ、もうちょっと待とうぜ。ヤツに電話がかかってくるかも知れないじゃないか(上巻p.212、大意)。
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by nobiox | 2006-06-20 23:44 | ├読書日記 | Comments(3) |
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