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ヘッドスライディング1:ほんとうに遅いのか
長い間、ヘッドスライディングはまっすぐ駆け抜けるよりも遅い、というのが常識とされてきたし、私もそう思っていた。
「ヘッドスライディングは遅い」説

・言うまでもなく遅い。
・当然ながら遅い。
・ゼッタイ遅いに決まっている。
・一塁へのヘッスラは味方を鼓舞し審判を感動させるための無意味なパフォーマンス。
・一塁へのヘッスラは無意味な自己満足。
・一塁へのヘッスラはバカがやること。
・そもそもスライディングは停まるための技術である。
・推進力を放棄するから遅い。ドリフト走法がグリップ走法より遅いのと同じ。
・陸上競技の走者はヘッドスライディングしないではないか。
イチローもそう言っている。

イチロー・スズキがたしかにそう発言したのかどうかは知らないが、スライディングよりまっすぐ駆け抜ける方が速い、とイチローが考えていることは間違いない。

2005年8月25日のマリナーズvsホワイトソックス戦、二死一三塁で打球は三遊間、遊撃手はこれをセカンドへ送球した。この場合一塁走者は足から滑り込むのがたぶん常識だが、一走イチローはスライディングせず、ベース上をまっすぐ駆け抜けようとしてセカンド井口資仁とぶつかった。井口はさぞ面食らっただろう。

イチローは「外野手は基本的にヒマなんで、そのあいだ、アウトを取る新しい方法はないか、進塁する新しい方法はないか、フェンスを一瞬でよじのぼる最も効率的な体の使い方は何か、などなど、そういうことをいっつも、ずーーーーーっと考えている」んだそうで、このケースで二塁をまっすぐ駆け抜けるのは、そういう中で思いついたアイデアのひとつだと言う。

イチローの言い分:「この場合一走にできる最善策は、とにかくフォースアウトを回避することである、それさえできれば、たとえその直後に挟まれてアウトになるとしても、その間に三走はホームインできる。フォースアウトを回避するには一瞬でも早く触塁するしかなく、そのためにはまっすぐ駆け抜けるのがベストである」

しかしマイク・ハーグローブ監督(55)はこのプレーを問題視(このケースで駆け抜けるのは怪我のリスクが高いから)し、試合後イチローを監督室へ呼び出した。「アウトと引き換えの得点は歓迎するが、怪我と引き換えの得点は望んでいない」。今後はスライディングする、と約束させられたが、イチローは納得していない。だそうです。『週刊ベースボール』の石田雄大氏の連載コラムにそう書いてありました。こういうケースでスライディングしないことが如何に危険かについては、「少年野球BLOG」>「スライディング」という記事が勉強になります。

この話からふたつのことがわかる。一瞬でも早く触塁するにはまっすぐ駆け抜けるのがベストだとイチローが考えているらしい、ということ。また、福本豊さんはヘッスラする選手を見るたびに「危ないでえ、怪我するでえ、絶対やったらアカン」と非難するけれども、イチローがヘッドスライディングしないのは怪我を避けるためではないらしい、ということ。

また最近、北京五輪の予選で一塁へヘッドスライディングした川崎宗則に説教した、という記事がある。

川崎をイチ喝!! あわや福岡へ“強制送還”
2007年12月27日付 西日本スポーツ

 イチロー「北京の予選だか本戦だか分からないけど、その後だったんでね。ちょっと説教しましたよ。気になるところがあって…。それが解消しないと、福岡まで送り返そうと思ってた」

 問題の場面は韓国戦の初回だ。2番に入った川崎は初回1死、遊ゴロに必死の一塁ヘッドスライディング。はた目には気迫の表れにも見えるが、「1回からヘッドスライディングなんてバカげたことをやりやがって」「カッコ悪いでしょ? 日本のオールスターだよ。アマチュアじゃない」。怒りを通り越し、あきれた口調でまくし立てた。

 内野安打の多さで知られるイチローだが、ヘッドスライディングはしない。塁に早く到達できる根拠はなく、故障のリスクも伴う。日本では士気を高揚する行為として称賛の対象ともなるが、高い走塁技術を誇るイチローには見るに耐えない“愚行”だったようだ。(中略)「ヘッドスライディングしたやつがいるって聞いたから誰だろうと思ってたら、宗の写真がドーンと出てて。もう1人いるって、聞けば青木(ヤクルト)。宗と青木だぁ—!? WBCで僕の近くにいて、何を見てきたんかと…」

 台湾戦初回の青木の走塁にも憤慨したイチローは前日25日、川崎に直接「どうしてだと事情聴取した」。そこでの説明に「同情するところもあって大目に見た」ため、合同練習は予定通り決行となったが、川崎の釈明については「言えない。宗にも聞かないでおいてほしい」とフタをした。(中略)「カッコ悪いことはするな、夢を壊すなということ」(後略))
「怒りを通り越し、あきれた口調でまくし立てた」という作文がちょっとアレですね。この記事ではイチローがヘッドスライディングの何を気に入らないのかよくわからないが、マーティ・キナートの言うような思考がアメリカで強いのだとしたら、その影響もあるのかも知れない。少なくとも、「まっすぐ駆け抜けようと」した話と合わせて見ると、速いか遅いかと言ったらスライディングは遅い、とイチローが考えているらしいことはわかる。しかし、ほんとうに遅いのか。

実験


この図で、ほらね、ヘッスラの方が早いっしょ? と言いたいわけではない。この図で、ふたつのことを主張する。ひとつ:「地面から1m近い高さにある手をわざわざ地面近くのベースにまで持っていく無駄な時間」なんてものは机上の空論であって、実際にはそんなタイムロスは存在しないということ。ふたつ:ダイブの基本は「走ってきた勢いのままバタンと転ぶ」である、ということ。

▼以下、改稿を機に、この記事は「ヘッドスライディングは遅いのか」に引っ越しました。
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by nobiox | 2008-01-06 04:00 | ├ヘッドスライディング | Comments(17) |
Commented by 念仏の鉄 at 2008-01-06 00:09 x
TBSのショットガンタッチは「手でボールに触れる」のが競技規則なのだと思ってました(実際にどうかは知りません)。あのセットは、おそらく標的の手前2メートル弱の距離からマットレスになっていて、その部分を踏んだら失速する(あるいは布に足をとられて転ぶ)可能性が高いので、駆け抜けることは事実上不可能だし、足から飛び込むのも難しそう。ハードウェア自体が頭から飛び込むことを誘導しているように思います。床が硬ければ足から行く選手がいるかどうかはわかりませんが(サッカー選手なら足から行くかも知れません)。
それはそれとして、紫電改さんや萬野修平さんの実験は興味深いですね。「ヘッドスライディングするより駆け抜ける方が早い」というのが父兄の中でも常識なんですね。私の印象では、この説が普及したのは、せいぜいここ20年かそこらで、そんなに昔から常識だったわけではない気がします。
Commented by nobiox at 2008-01-06 11:24
ショットガンタッチの場合は不思議なことに、番組を作ってる側にも参加してる選手にも視聴者にも、「ダイブの方がはやい」という完全な共通理解があるんですよね。土のグラウンドでやってもみんなダイブしそうな気がしますが、走り抜ける人も見てみたいものです。

ここ20年くらいなのかどうか私には判断できませんが、20年あれば小学生の父兄にとっては常識なんじゃないでしょうか。そう言えば(無関係ですが)「最強を目指すなら空手より柔道」という常識も、ここ20年くらいでできた気がします。
Commented by えぞてん at 2008-05-28 00:50 x
念仏の鉄さんのHPからこちらに来ました。ヘッドスライディングに関する考察おもしろすぎます。
私が子供の頃、明治生まれの祖父は、テレビの野球中継で一塁にヘッドスライディングをする選手を見ると「走り抜けたほうが早いんだ!」と怒っていました。それが常識であるという口振りでした。祖父は社会人野球の仕事をしていた人で、野球の素人ではありません。昭和50年頃の思い出です。
Commented by nobiox at 2008-05-28 16:00
ありがとうございます。昭和50年についての貴重な情報にも感謝です。
Commented by 薩摩人 at 2009-09-04 12:15 x
角速度は、無視なんでしょうか?
Commented by nobiox at 2009-09-18 05:30
>角速度は、無視なんでしょうか?

すみませんが意味がわかりません。何の角速度でしょうか。
そもそも角速度とは何かすら知らないのです。
Commented by もず at 2011-08-20 09:33 x
最後の実験・・・稚拙すぎませんか?(笑)
一塁までの距離と速度も書いてないし人間はダイブするのに予備動作がどれだけ掛かるかも書いていない。

>すみませんが意味がわかりません。何の角速度でしょうか。
そもそも角速度とは何かすら知らないのです。

角速度を知らなくてよく物理を語れますね・・・。
Commented by nobiox at 2011-08-21 01:36
「最後の実験」って、もしかして「ソフトボール競技の異なるスライディング技術による塁間所要時間の差」のことですか。でもそれだったら「ソフトボールでの1-2塁間(18.29m)で」と書いてあるので、違いますよね。「一塁ベースへのヘッドスライディングに関する動作学的解析」のことですか。でもそれは「一塁手前8メートルの区間」のみを測定してるらしいので、「一塁までの距離」はあんまり関係ないような気がするのですが。「最後の実験」とは何を指すのでしょうか。

>人間はダイブするのに予備動作がどれだけ掛かるかも書いていない。

もずさんのお考えではどれだけ掛かるんですか? 僕は「後ろへ蹴ったまま、前へ戻すのをやめる」だけでダイブになる、ダイブに予備動作なんて不要、と書いてるつもりなんですが。

>角速度を知らなくてよく物理を語れますね・・・。

僕が述べたことに、角速度無知ゆえの間違いがあるなら、どうぞご遠慮なくご指摘ください。
Commented by 念仏の鉄 at 2012-06-29 09:15 x
今朝(2012/6/29)の朝日新聞の東京版に、都立校野球部の部員7人で実証実験をした結果が載ってます。それぞれが駆け抜けとヘッドスライディングを2回づつ行ったところ、2回の平均値でヘッドスライディングが早かったのが3人、駆け抜けが4人。結論としては「ヘッドスライディングが上手な選手はヘッドスライディングの方が早い」みたいな話になってます。
Commented by nobiox at 2012-07-01 13:23
情報ありがとうございます。しかしアレですね、せっかくやるならもうちょっと徹底してやればいいのに2回ずつかよっ、とも思いますね。もちろん1回の実験もしてない僕よりは、ずっとエラいんですが。
Commented by ななし at 2014-02-26 20:24 x
偶然見つけて少しおかしい部分を見つけました。
ここで似たような指摘があり、nobiox氏も望んでいるようなので遠慮なく指摘させてもらいます。

角速度は、簡単にいえば円運動をしている物体の速度のことです。
nobiox氏は飛んでから倒れこむまでの時間を「70cmの高さを自由落下するのに要する時間」と表記していますが、
それには「その時間内に体が地面に着かない」事が条件になります。
そして人間を一本の棒に見立て、直立状態から90度傾けた(地面と平行)状態になるまでの時間を、この角速度によって求める事が出来ます。
nobio氏が言う様に、特別な予備動作や力無し、重力任せで倒れこんだ場合、重心が地面から1mの高さにあると仮定すると、飛んだ時重心が垂直状態から30度傾いた状態からでも0.68秒かかります。
0.38秒ではこのページのGIFアニメでも見られるように、殆ど傾く事無く足が地面に接地して、とても「ヘッドスライディング」の様にはならないと思うのですが。
Commented by nobiox at 2015-09-02 18:41
>角速度を知らなくてよく物理を語れますね・・・。

私の主張は、私の知る限りの「ヘッスラ遅い論」は、小学生でも気付く程度の素朴なデタラメばかりだ(その証拠に僕の物理の学力は小学生程度)、ということです。
Commented by nobiox at 2015-09-02 19:02
>ななしさん

小学生並のアタマで理解するのに、1年半かかりました。
角速度を計算すると、特別な予備動作なく重力任せで倒れこんだ場合、
30度前傾した状態から水平になるには0.68秒かかる。
一方、70cmの高さを自由落下するのに要する時間は0.38秒である。
0.38秒ではぜんぜん水平になるには足りない、という意味ですね。
御指南ありがとうございます。

角速度の計算にも「重心が地面から1mの高さにあると仮定すると」という条件が
必要なのでしょうか。

最近私は、予備動作として「上体を傾ける」必要があり、最後の一蹴りの時点で
上体はかなり水平に近くなるんじゃないか、と、考えを改めました。
Commented by くまごろう at 2016-06-21 12:56 x
あと等速直線運動ではないから,走っている方が加速し速度があがっていきます。
わずか20m足らずだと最高速に持っていけません。
Commented by at 2016-07-21 10:55 x
最後の実験上だけ手が伸びてる意味がわかりません下も足が出てないとおかしくないですか?
Commented by nobiox at 2016-10-08 15:20
>くまごろうさん
ごもっともなご意見と思います。が、その表現だとずいぶん加速するように聞こえますが、2歩の距離をダイブするとすると、失うのは1蹴りです。1蹴り分の加速といえども無視はできませんが、ダイブによるリーチのメリットと、最後の一歩の加速を捨てるデメリットの、どっちが大きいかという問題だと思います。水泳選手は最後のひと掻き(の、手の位置)が中途半端な位置にくると、最後の1掻きぶんの加速を放棄し、タッチの有利さを選ぶそうです。
Commented by nobiox at 2016-10-08 15:20
>あさん
「最後の実験」が何を指すのか、ようやく理解できました。最後の gif 画像ですね。水色の棒切れが台に乗って動いてるヤツ。言われてみればたしかに、下のには足を描いた方がよかったような気がしますね。ご指摘ありがとうございます。ご指摘を受け、画像の下に177字、説明文を追加しました。
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