年俸軟着陸計画に向けて
中村紀洋33歳は2006年、年俸2億円プラス出来高払い5000万円でオリックスと契約していた。2006年シーズンの成績は85試合359打席2割3分2厘、12本塁打45打点。2007年に向けての契約交渉でオリックスは40%の減額制限を超える60%減の年俸8000万円を提示し、決裂。2007年2月3日現在、就職先未定の状態が続いている。

立浪和義37歳は2006年、年俸2億2500万円で中日と契約していた。2006年シーズンは113試合284打席2割6分3厘、1本塁打31打点。2007年に向けての契約交渉で中日は56%減の年俸1億円を提示、出来高5000万をつけることで契約成立した。以上、金額はすべて推定。

so what?:合点がいかぬことばかり
見物人の論理:弁護士がスポーツ代理人に向いているとは限らない
大生いっちょ!:ノリ中村の減俸は協約違反?

中村も立浪も偉大な選手だ。数年以上にわたって主力としてチームを牽引した実績があり、ベストナインにもゴールデングラブ賞にも何度か輝いた。チームの顔。その結果として年俸が高い。しかし残念ながらピークは過ぎたと思われる。大幅な減額提示を受けるのは大抵こういう「ピークを過ぎた偉大な選手」だ。年俸の年功序列的側面があまりに強すぎ、その反動としていきなりの大幅減俸がやって来る。

私はプロ野球選手の年俸決定に年功序列が考慮されることを「必要悪」とは思っていない。「必要」だと思っている。年功に対する配慮をゼロにして完全実績主義を採用すると、大怪我でシーズンを棒に振った場合にはいきなり年俸ゼロということになり、選手にとってあまりにリスクが大きい。年功序列にはそのリスクに対する保険、という意味合いがあり、ある程度は必要だろう。

ある程度は必要だとしても、問題は、あまりにも年功序列が強過ぎるということだ。例えば23歳で7勝したピッチャーと35歳で6勝したピッチャーを比べれば、誰が考えても前者の方が魅力がある。ところが年俸は前者が1500万で後者が2億だったりする。ちょっと極端過ぎないか。この構造が、「チームの顔がいきなり大幅減額を突き付けられる」という状況を生む。サドン・ダウン。ベテランの年俸をもう少しソフトランディングさせる知恵はないものだろうか、と毎年思う。いまのところ現実的な対策は、ベテランが自らの大幅減俸の可能性を自覚して貯金(あるいは資産運用)する、ってくらいだろうか。

年俸のサドン・ダウンまではまだしも、深刻なのはサドン・デスだ。つまり対応によっては引退の危機に追い込まれる。中村も立浪もバリバリの若手に比べれば魅力がないかも知れないが、かと言ってぺーぺーの若手よりははるかに魅力的じゃないか。なのにぺーぺーの若手の多くは契約を更新でき、ものすごく野球ファンに愛されているキャラの濃い功労者の方が、年俸がネックになってものすごく不安定な立場に置かれる。まったく理不尽だ。



ところで、このたびの中村紀洋の契約交渉を巡っては「意志の明示があったかなかったか」をポイントにあげる議論が多い。私がたまたま見た範囲では次のような主張がある。

中村の同意なしに減額制限金額を一方的に提示し続けたのは協約違反。それと、戦力外通告はトライアウトより前に行うべし、という申し合わせがある。減額制限を超える提示の場合は自由契約(戦力外)とした上で行うべきで、であるならば減額制限を超える提示もトライアウトより前に行うべきだ。この点でもオリックスはけしからん。
「戦力外(自由契約)とする場合には合同トライアウトまでに通告すべきとの申し合わせ事項に違反しているので謝罪せよ」、という選手会の主張はナンセンス。オリックス側は「最初から戦力外」なんて意思表示はしていない。あくまでも必要な選手として交渉していたのに結果として決裂した、ということ。
オリックスのやり方は「減額制限を超える減俸を飲め、それがイヤなら出て行け」と言わんばかりで、けしからん。つまり、「この額を飲まないならクビ(自由契約)」なんて意思表示をしたとしたら完全にけしからんし、そこまではっきり言ってないとしても言ったも同然のやり方なんだからけしからん。
この額を飲まないならクビ(自由契約)、という意志をオリックス側が明示してたならまだしも、「あくまでも必要な戦力として考えている」とか言いつつ減額制限を超える提示を続けたことが明白な協約違反。
中村の同意がないにもかかわらずオリックスが減額制限を超える提示を続けたことは明白な協約違反だが、自由契約にしてくれ、なんてことを中村サイドから言い出したのだとすれば、協約云々を言う資格自体を中村が放棄した、としか考えられない。
複雑だ・・・以上のどれとどれがどういう関係にあるのかすら、私にはよくわからない。しかし少なくともいちばん下の、「自由契約を中村サイドが言い出したのなら第92条もへったくれもない」、という理屈は成り立たないのではないか。どんなアナーキストであっても一般人であっても日本にいる限りは日本の法律の保護あるいは拘束を受ける。同様に、球団が何を言い出そうが選手が何を言い出そうが、球団と選手の契約は契約書と協約の保護あるいは拘束を受ける。



野球協約第70条(球団の契約更新拒否)
契約保留選手が、全保留選手名簿公示の年度の翌年1月10日以後この協約の第92条(参稼報酬の減額制限)に規定する参稼報酬減額制限額以上減額した参稼報酬を契約条件として選手契約の更新を申し入れ、球団がこれを拒否した場合、球団はその選手にたいする保留権を喪失し、その選手はコミッショナーに自由契約選手指名を請求することができる。
[1998.11.18改正]
野球協約第92条(参稼報酬の減額制限)
次年度選手契約が締結される場合、選手のその年度の参稼報酬の金額から左記のパーセンテージを超えて減額されることはない。ただし、選手の同意があればこの限りではない。
その年度の参稼報酬の金額とは統一契約書に明記された金額であって、出場選手追加参稼報酬または試合分配金を含まない。
(1)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円を超えている場合、40パーセントまでとする。
(2)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円以下の場合、25パーセントまでとする。
[2005.12.1改正]

この92条にまったく実効性がないことはすでに明らかだ。球団がベテランに大幅減俸提示を行う場合、もちろん残って欲しいけど最悪の場合はトレード、もしくは自由契約もやむなし、という覚悟があるのが普通で、つまりは「減額制限を超える減俸を飲め、それがイヤなら出て行け」と言ってることになる。減額制限は「ぜひとも残って欲しい」と球団が思ってるような選手には効果があるだろうが、是非とも残って欲しいと思ってる選手に大幅な減額を提示する、なんてことはそもそもあり得ないので、だとすると全く意味がない。

協約で大幅減俸の提示自体を禁止すれば「減額制限を超える減俸を飲め、それがイヤなら出て行け」なんてことをなくせるわけだが、いきなりクビが増えるだろう。「もちろん大幅減俸はイヤやけど、いきなりクビよりはましや。あんな協約がなかったらワイはいきなりクビにはならんかったハズや。ワイは大幅減俸提示禁止の犠牲者や」という事態が起きかねず、だからこそ「選手の同意があればこの限りではない」みたいな抜け道が必要となる。この抜け道がある限り92条は実効性を持ちようがないが、この抜け道を塞ぐのは選手会にとっても諸刃の剣である。というわけで、私の主張は以下の通りです。



プロ野球界の収入がゆるやかに減っていく一方で、福留みたいな勝ち組の要求は何故か年々高まっていくようで、であればたぶん来年以降も、年俸がネックになりかけてるベテランに対する大幅減俸提示は増えるであろう。福留だっていずれはそういう目に会うだろう。この事態に対して、現状の野球協約92条はまったく何の役にも立っていない。遅くとも2007年の夏までに、

1:戦力外通告はトライアウトの◆日以上前に行うべし
2:○%以上の減額提示を受けた選手には自由契約を要求する権利が、球団にはその要求に即刻応じる義務が発生する。したがって○%以上の減額提示も、トライアウトの◆日以上前に行うべし

ぐらい、ぺナルティまで含めて協約に明文化すべきだ。そうなればベテランの雇用流動性は上がり、プロ野球ファンにとってもメリットが大きいのではないか。
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by nobiox | 2007-02-03 05:25 | ├野球 |
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