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2010年W杯南ア大会 - 金子逹仁01「負けろ、日本」
■週刊朝日6月11日号(金子逹仁 / 南ア大会直前)

わたしにはもう思えない。なにはともあれ南アフリカでは頑張ってほしい、できるなら勝ってほしい、とは思えない。 選手生命を賭けて大会に臨む選手たちには本当に申し訳ないと思う。それでも、岡田監督の更迭がなされない限り、わたしは南アフリカでの日本代表の勝利を祈れない。むしろ、こう思ってしまう。 負けろ、日本。未来のために。

こりゃ日本ダメだろ、1勝もできんだろ、ああくそ最悪だ、ドイツまでの4年間をジーコに丸投げして無駄にして、また今度オシム以後の2年半を無に帰すのか、と、金子逹仁は思ったのだろう。それはいいと思う。この時点で、サッカーW杯に多少なりと関心のある日本人の90%以上はそう思っていたんだから。素直にそう書けばいいのに、いくらなんでも「負けろ、日本。未来のために」はないだろう。なんでそれほど無理矢理に、おおげさに、勇壮に、膨らませるんだ。

1)「最高の準備と最高の内容でグループリーグ突破」
2)「準備も内容も最悪だったが、結果はグループリーグ突破」
3)「いい準備と、いいサッカーをしたが、グループリーグで敗退」
4)「準備も内容も最悪、結果もグループリーグで敗退」

金子逹仁は、日本サッカーの未来のためには2よりも4の方が望ましいと言う。理由は、2だと反省がおろそかになるから。アホか。言いたいことはわからんでもないが、その帰結として選択する主張が、あまりにもおおげさで、トンチンカンだ。

どう考えても上記の1から4まで、この数字の順に望ましい。当然だろう。もともと日本国内のスポーツ人気は、国際大会の結果に大きく左右される傾向がある。柔道しかり、ゴルフしかり、野球しかり、バレーボールしかり、卓球しかり、ハンドボールしかり。サッカー日本代表が無様に負ければ、サッカー人気は下がり、スポンサーは撤退し、サッカー雑誌は売り上げを落とし、サッカー雑誌はスパイラル効果で広告収入を落とし、サッカー番組は減り、Jリーグの観客動員は減り、選手は自信とモチベーションを保つのが(比較的に言えば)困難になり、次期監督選考にも不透明感が漂う。負けて得られるものなど何もない。いや少しはあるだろうが、勝って得るものに比べれば少ない。なんと言っても勝てばW杯で経験できる試合数が増え、負ければ減るのだ。無論、W杯日本代表の試合の放映数も。

現に松井大輔は大会後のインタビューに「ここでダメなら、サッカーで仕事をしている人はメシが食えなくなる、という思いは共有していたと思うし、実際に現地にいたメディアの方とは、だんだん一体感が出てきたと思います」と答えている(サッカーマガジン2010.7.20号)。なんという切実な、危機感に満ちた、リアリスティック・シンキング。日本のサッカー人気が盛り上がろうが冷めようが、フランスリーグで飯食ってる彼には直接関係ないにも関わらず、彼は同胞の心配をしている。一方、まさに日本で「サッカーで仕事をしている人」であるはずの金子逹仁の「負けろ、日本」には、松井発言の持つリアリティの数パーセントも感じられない。

◆◆

で、W杯初戦。日本は勝ってしまった。内容は酷いもんだったが。「不屈のライオン相手に、とにかく、勝った。ただ内容は酷いもんだった」と、金子逹仁は思ったのだろう。それはいいと思う。僕もそう思った。素直にそう書きゃいいじゃないか。凄い。勝った。だけど内容は両チームとも酷いもんだった、と。しかし彼は、何故か無理矢理に、おおげさに、勇壮に、尾ヒレを膨らませる。

■苦く悲しい「つなぎ」なき勝利(金子逹仁 / 2010年06月17日)

 わたしが技術を重んじる少年サッカーの指導者だったら、頭を抱えている。普段からボールを大切にしろ、つなげと教えてきたのに、自国の象徴たる日本代表が、勝つためにはただ蹴っておけというサッカーをやってしまった。しかも、勝ってしまった。勝利に感動する子供たちに、今後どうやってボールをつなぐ大切さを教え直せばいいのか。(中略)

 皮肉ではなく、本心から思う。この勝利は、日本代表の勝利ではない。岡田監督の勝利だった。勝ち点3と引き換えに、日本サッカーは大きなものを失った。日本=退屈。日本=アンチ・フットボール。この試合で張られたレッテルを剥がすには、相当な時間が必要になることだろう。

 こんなにも苦く、こんなにも悲しい勝利があることを、わたしは初めて知った。(スポニチワールドサッカープラス)

日本が勝って頭を抱える少年サッカーの指導者。なんというリアリティ皆無の想像。そんな指導者、いないって。確かに日本は勝ったけど、オレらはあんなサッカーは目指さないよと、言いたいのであれば、ひとことそう言えばいいだけの話じゃないか。ひとことじゃ足りないなら、何度もそう言えばいい。サッカー小学生たちだって、「自陣に引き蘢って守備に徹すりゃよほどの強豪相手でもそこそこやれるんだよな、まあ、褒められたもんじゃないけどな。まあ今回は現実路線ってことでしょうがない面もあるけどね」「にしてもカメルーンお粗末だったよね」「あー、フィジカルの調整に失敗したんじゃねーの」くらいのことは、言われなくても思ってるんじゃなかろうか。(後記:岩佐徹さんという人が「この人の、なんでもギリシャ悲劇のような詠嘆調にしてしまう文章はもう読み飽きました。『もっとつなぐサッカーをやれ』と言いたいのでしょうが、普通にそう書けばいいのに」とブログに書いてるのを発見した。そうそう、それだ)

「日本サッカーは大きなものを失った」。そうか? これまでに、どんな大きなものを持っていたんだ?
「相当な時間が必要になる」? アホか。次戦か次々戦で素晴らしいサッカーでも披露すれば、それで一発だろう。
「わたしは初めて知った」? サッカーを何十年も見てきて、「釈然としない結果」もままあるという事実を、初めて知ったのか。んなわけないじゃん。何のためにそんなくだらない、低次元の嘘を吐くんだよ。金子逹仁を演じるためか。

というわけで、ここで金子逹仁に言いたいことはひとつだ。いちいち不必要におおげさなんだよ。

なんであれ少しでもおおげさに、極端に、扇情的に、ドラマチックに、鮮やかに、強く、明快に、わかりやすく言い立てた方が効果的だと、思っているのかも知れないが、だとしたら考え直した方がいいと思う。それは典型的な愚民思想(あるいは麻原彰晃主導のオウム思想)だ。最も効果的な言論は、最も扇情的な言論ではなく、最も「なるほど指数」の高い言論ではなかろうか。ここ数年の金子逹仁の発言には、総じて、あまりにもそれが低い。「派手な見出しで派手にかましときゃ、衆愚は恐れ入るだろ」とでも思っているように見える。あとは素敵ライフを示唆するグルメレポートと、権威を担保する旬のサッカー選手との交友録か。バカとしか思えない。

ここまでハゲしいことを書くつもりはなかったんだけど、書いてるうちに多少興奮してきて、こんな感じになってしまいました。あらためて考えるとオウム思想も確かに効果的だとは思う。現に、ひじょうに効果的だったらしいし。
by nobiox | 2010-07-19 22:04 | ├野球以外 |
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