「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」
原作:本谷有希子 / 脚本,監督:吉田大八 / 出演:佐藤江梨子,佐津川愛美,永作博美,永瀬正敏 / 2007年
★★★★……すごくおもしろかった

この1ヶ月に観た、すごくおもしろい DVD:「蛇イチゴ」「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「ゆれる」。けっこうおもしろかった映画(テレビで観た):「ターミネーター2」。まあまあだった DVD:「紺野さんと遊ぼう」。それ以下(私にとって)だった DVD:「週刊真木よう子」「紀子の食卓」「自転車吐息」。ほぼ五割か。意外に歩留まりが高い。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」。いや、これねえ、素晴らしいです。観てよかった。

チャラい放蕩息子あるいは娘が帰還して、因習的な、停滞した、淀んだ地元の空気に緊張が生じる、というありがちな設定は、考えてみれば「ゆれる」「蛇イチゴ」「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の3作に共通している。帰還のきっかけが葬式、というところまで3作共通。

高慢な自信家が理不尽に君臨する、というお話も珍しいものではない。「白鳥麗子でございます!」「正義の味方!」など、特に少女漫画の世界に多いような気がするんだが、だとすると何故だろう。「なんで○○さんっていっつも威張ってんの、バッカみたい。まあいちおうちやほやしといてあげるけどね」的な感情を胸に秘めて暮らす小中学生女子の割合が、男子よりも多いのか。あるいは、男の暴君が洒落にならないのに比べ、女の理不尽女王はどことなく愛嬌があって、煙たがられる一方で逆説的に愛されているのか。

これのオリジナルは漫画ではなく、本谷有希子による戯曲だそうだ。初演は2000年で、本谷有希子は当時22歳。本谷有希子自身が自己投影されているのは高慢な姉の方なのか虐げられる妹の方なのか、興味がある。

高慢な女王様が理不尽に君臨する、というお話を実写化すると、表情や照明や音楽の使い方などでコミカルなノリが強調されることが多い。「白鳥麗子でございます!」も「正義の味方!」もそうだった(のではないかと想像する。もっとも、それらの作品はタイトルも内容ももともとがコミカルだから当然かも知れないが)。本作もどことなく全体がマンガっぽいが、ただ(タイトルが仰々しく重々しい上に、たぶんそれだけでなく、もともとの戯曲の雰囲気が重いのだろう)、表面的にはコミカルな味付けがほとんどない。ソバをぶちまけるシーンなんて、「ナースのおしごと」だったら間違いなく「宙を舞うソバ」と「それを目で追う妻の表情」をスローモーションで交互に見せるはずだが、本作は北野武的にあっさり流す。唐突な美学と言うか。それがイイ。そのおかげで漫画を超えたお伽噺とでも呼ぶべき普遍性を獲得している、なんていうのは言い過ぎかも知れないがちょっと言ってみました。何かに印象が似てると思って記憶をたどったら、乙一(おついち)という小説家(?)の『zoo1』という短編集だった。教訓めいたものが何も残らない、不思議な、残酷な、意図不明の寓話。しかも(あっさり唐突な描写を補うかのように)、劇中の妹が姉の暴走ぶりを観察しては、コミカルに戯画化して見せる。呪みちる(Noroi Michiru )、という漫画家によるその劇中漫画がまた、素晴らしく魅力的に見える。

この妹は劇中、左手で漫画を描く。佐津川愛美オフィシャルブログによると、
腑抜けどもで左で字とか絵を書いていて、他の作品では右で書いていたのですが本当は何ききなんですか?

本当は右利きです☆左利きの人って天才肌というか、そういうイメージがあって、監督がもし出来たら左利きでいきたいという事で、私もそう思ったので、練習しました。
スタッフさんにドリルみたいなのを作って頂いて、字や漫画を書くのに必要な線や曲線を練習したり。ごはんを食べるシーンもあったので、普段の食事の時も左手でご飯を食べたり。
でも左手がキーになっている訳ではないし、敢えて頑張って練習したって言わない方がカッコいいけど、実際凄く頑張った方だと思うから、結構言っちゃってる。笑
監督と私のさり気ない深いこだわりです。
ということらしい。

高慢な女が似合う若き日本人女優といえば松雪泰子が思い浮かぶけど、佐藤江梨子も素晴らしいです。連続ドラマ『相棒』で、佐藤江梨子がハゲしく我が儘で暴力的で凶悪な犯罪常習者を演じた回を見たことがあるけど、調べてみたら放送は2005年11月30日(「監禁」)らしい。吉田大八はそれを見たのかも知れない。
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by nobiox | 2009-07-20 16:50 | ├映画 |
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